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キーワード解説 なぜウェルビーイングは注目を集めるのか~現代の多様な価値観、複雑な利害関係を満たす良好さの新概念

「ウェルビーイング(Well-being)」と呼ぶ新しい価値観の概念が、政府や企業の制度設計からビジネス創出、ITシステム開発において重要視されるようになりました。ウェルビーイングとは、「良好性」と訳される個人、企業、社会の状態の良好さを表す言葉です。

ウェルビーイングという言葉自体は、意外にも古くからあるものです。1948年に発効された世界保健機関(WHO)の憲章の健康な状態を定義する文言の中で「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と記されています。つまり、ウェルビーイングとは広い意味での良好さを包含しています。

分断を回避し納得感のあるコンセンサスに至る

なぜ今、ウェルビーイングに注目が集まるようになったのでしょうか。その背景には、社会の成熟とグローバル化が進み、人々の価値観や生き方が多様化したこと、そして解決すべき社会問題を取り巻く利害関係が複雑化したことがあります。

暮らしやビジネス、社会活動がどのような状態になれば良好であると言えるのかは、個人の主観や地域、時代によって大きく異なります。良好性には本来多様性が伴うものであり、多様性に配慮を欠いた制度設計などを進めれば、社会の分断を助長することになります。COVID-19によって人同士のコミュニケーションが希薄化したことで相互理解が鈍りかねない昨今では、多様性の抑圧と社会の分断はこれまで以上に顕在化してしまう可能性もあります。

こうした社会情勢に合わせて、円滑にコンセンサスが得られる、より抽象度の高い新たな良好性の概念が必要になってきました。これがウェルビーイングなのです。多様な価値観を持つ人たちが、まずは共有しやすい目標を掲げる議論のテーブルに就き、相互理解を進めながら問題解決の糸口を探ろうという発想です。NEC未来創造会議でも、「人間」「社会」「環境」「未来」の分断を克服するための素地として「意志共鳴型社会」を築くことの重要性を訴えています。

ウェルビーイングは、現代社会で生じがちな分断を回避し、問題解決やビジョンの実現に向けて多様な意思を同じ方向に揃えるための概念です。一見同義に感じる「ハピネス(Happiness)」とは違う概念だと言えます。NEC未来創造会議・分科会では、ハピネスは感情的で一瞬しか続かない幸せであるのに対し、ウェルビーイングは持続する幸せを指すことであると定義しています。

ウェルビーイングを向上させる2つのアプローチ

ウェルビーイングの向上を目指して制度設計やビジネス創出、システム開発を進めるためには、具体的にどのような取り組みが必要になるのでしょうか。ここで2つのアプローチを紹介します。

1つは、多様な価値観を持つステークホルダーを一堂に集め、ワークショップなどを開催して、相互理解を深めながら落とし所を探るアプローチです。時間のかかる方法ですが、合意への納得感が得やすいアプローチだと言えます。このアプローチの一例に、科学技術振興機構社会技術研究開発センターが作成したウェルビーイングの実践ガイドラインがあります。ここでは、日本的な価値観に基づくウェルビーイングを「医学的ウェルビーイング」「快楽主義的ウェルビーイング」「持続的ウェルビーイング」の3つに分類。同じコミュニティーに属するさまざまな人が、これら3つのウェルビーイングのあるべき姿を議論して合意できる達成目標や実現手法を探る方法を提案しています。

もう1つは、ウェルビーイングに含まれる要素を体系的に分類し、それぞれに対する社会の望みを客観的に評価して、施策の策定指針を浮き彫りにしていくアプローチです。より多くのステークホルダーの意見を吸い上げ、客観性の高い判断ができる点がメリットです。このアプローチの一例に、毎年140を超える国や地域を対象に米Gallup社が実施している幸福度に関する調査があります。この調査では、ウェルビーイングを「Career(生きがい面)」「Social(人間関係面)」「Financial(経済面)」「Physical(心身面)」「Community(地域社会面)」という5つの要素に分け、被験者が過去に経験した「体験」と、その結果被験者が感じた主観の「評価」の2軸からウェルビーイングを定量化し、分析しています。

デジタル化社会とウェルビーイングの関わり

現代社会では、暮らしや社会活動にデジタル技術が欠かせなくなりました。そして、ウェルビーイングの向上手段としてもデジタル技術を積極的に活用するようになりました。その半面、デジタル技術が人の判断や行動に過度に介入するようになると、人が機械に操られてしまいウェルビーイング本来の意味合いとはかけ離れた状態になりかねません。

こうした状況を未然に防ぐための動きが早くも出てきています。米Google社は、新時代のウェルビーイングのあるべき姿として、「テクノロジーとの健全な関係を構築し、適切に管理しながらメリットを最大限に享受すること」と定義した「デジタル・ウェルビーイング(Digital Well-being)」と呼ぶ概念を提唱しました。その手始めとして、多くのユーザーが持つスマートフォンのOS「Android OS」に、「Digital Well-being」と呼ぶ、デジタル技術の使用と介入を制限する機能を盛り込んでいます。デジタル技術は、あくまでも人のウェルビーイングを向上させるための手段にすぎません。この前提は、今後のICTシステムの開発にも広く求められるものです。

ウェルビーイングの向上に求められる視点とは

現在、さまざまな企業、行政機関が、業務の効率化や新たな価値創出を目指したデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みを進めています。DXでは、単にICTシステムを導入するだけでなく、同時に業務を進める組織・制度・ワークフローなども革新する必要があります。こうしたDXの実践では、採用するICTシステムの技術の選択と、組織・制度・ワークフローのステークホルダーの価値観に合わせた方針の策定、つまりデジタル技術を活用したウェルビーイングの向上が成功の鍵を握ります。

ウェルビーイングの向上には、「人の意識」と「技術」の両面からのアプローチが必要です。加えて、NEC未来創造会議が提唱する「意志共鳴型社会」で示しているように、「人間」「社会」「環境」「未来」の視点を考慮して取り組む必要があるでしょう。

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