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NEC未来創造会議

3rd Forum City
タクティカル・アーバニズムが実践する新たな合意形成

いま「パブリックスペース」でなにが起きているのか
――タクティカル・アーバニズムが生む新たな合意形成

2017年にNECが立ち上げた「NEC未来創造会議」は、2050年の未来からバックキャストし人が豊かに生きる社会を実現するためのプロジェクトだ。本プロジェクトはさまざまな有識者との議論を重ねるなかで「意志共鳴型社会」という社会像を提示し、近年は議論だけでなく教育機関や行政とともに共創活動にも取り組んでいる。

今年のNEC未来創造会議は「ニューコモンズ」をテーマに掲げ、歴史や都市などいくつもの観点から現代社会における共有資源のあり方や、共同体内での合意形成のアップデートに挑戦している。インターネットのような情報技術が世界中の人々をつなげた一方で社会の分断を加速させてしまったからこそ、再びコモンズのような共有のあり方やコミュニティをアップデートしようと考えたわけだ。

人類史を振り返りながら「コモンズ」という概念の起源やべつの可能性を論じてきた第1回第2回の有識者会議に続き、第3回は「都市」をテーマに議論の場が設定された。ゲストとして参加するのは一般社団法人ソトノバ共同代表の泉山塁威氏。ソトノバは2010年代前半からパブリックスペースを対象とした調査研究やメディア運営に取り組んでおり、市民や企業の小さなアクションから都市を変える「タクティカル・アーバニズム」など、新たなまちづくりの考え方を日本に紹介してもいる。NEC未来創造会議が考えるコモンズは、現代の都市空間とどのようにつながっていくのだろうか。『WIRED』日本版編集長・松島倫明によるモデレートのもと、NECフェロー・江村克己とNEC未来創造プロジェクトメンバー・岡本克彦とともに行われた議論は、現在進行系で進むNECの取り組みともつながりながらこれからの企業の役割も問うものとなった。

第3回有識者会議参加メンバー

  • 一般社団法人ソトノバ共同代表

    泉山 塁威 氏

  • 『WIRED』日本版編集長

    松島 倫明 氏

  • NEC フェロー

    江村 克己

  • NEC未来創造プロジェクトメンバー

    岡本 克彦

「パブリック」がもつ3つの意味

松島:
今回は街やストリートの観点からこれからのコモンズについて議論できたらと思います。ソトノバさんではよく「パブリックスペース」という言葉を使われていますが、泉山さんは「コモンズ」と「パブリックスペース」のつながりをどう捉えられていますか?

泉山:
まず前提として、わたしたちは基本的に「公共空間」ではなく「パブリックスペース」という言葉を使うようにしています。両者は同じものだと捉えられがちですが、必ずしも一致するわけではありません。「公共」という言葉は日本だと行政が管理するものという意味合いが強く、道路や公園など実際に行政が管理する空間だけを公共空間と捉えると議論の対象が非常に狭まってしまう。たとえば公開空地は行政ではなくビルやマンションが管理するものですが、こうしたパブリックな使われ方をしている空間を含めて議論すべきだと考えています。早稲田大学の齋藤純一先生は「パブリック(公共性)」には「オフィシャル」「オープン」「コモン」3つの意味があると仰っていて、オフィシャルは日本やアメリカにおける「公共」のように行政が担うものですが、オープンやコモンがまさにコモンズと接続する部分ですよね。

松島:
パブリックスペースの中にコモンズ的な要素があるというイメージですね。泉山さんはタクティカル・アーバニズムのように小さな個人のアクションからパブリックスペースを築いていく実践を進められていますが、なぜ都市計画のように大きな規模ではなくタクティカル・アーバニズムの観点からパブリックスペースにアクセスしようと考えたのでしょうか?

泉山:
わたしは2008年から2015年まで姫路駅の駅前広場の開発に携わっていて、公共事業として歩行者広場のデザインに取り組む一方で、同時期の2014〜2015年に池袋のグリーン大通りで既存の道路空間をオープンカフェにしていく社会実験にも関わっていました。どちらもパブリックスペースに関わるものですが、両者が大きく異なっていて驚かされたんですよね。前者は行政主導で進んでいったプロジェクトだったのですが、後者では町内会商店街の方々と対話を繰り返し、実験を重ねながら街が変わっていった。はじめはこちらの意図を理解いただけてなかったのですが、アクションを積み重ねていくことで「あなたたちが言っていたのはこういうことだったのね」と理解いただけるようになり、計画やビジョンだけではなく空間の体験をつくっていくことが重要なのだと衝撃を受けたんです。ちょうどその頃マイク・ライドンの『Tactical Urbanism』が刊行され、自分が経験したのはタクティカル・アーバニズムだったんだなと気づかされました。

ソトノバはパブリック・スペースに特化した同名のウェブメディアを運営している。

タクティカル・アーバニズムという新たな実践の形

松島:
同じ空間を共有しながら対話していくプロセスはこれまでの都市計画とはまったく異なるアプローチですよね。泉山さんもご自身の取り組みのなかで、タクティカル・アーバニズムをパブリックスペースにつなげていく可能性を実感していた、と。

泉山:
当時は目の前のことで精一杯だったのですが、振り返ってみれば時代感や大きな社会の流れがあったように思います。2000年代も名古屋の久屋大通や横浜の日本大通りで社会実験が行われていたのですが、補助金がなくなると社会実験が終わってしまうし、新たな取り組みを受け止められる制度がなかった。2010年代に入ってから規制緩和が進むなかで、社会実験のような取り組みによってさまざまなトライアンドエラーを重ねる動きが強くなっていったんですよね。

松島:
2014年には『シティ・ファーマー』のような本が翻訳されたり、「ゲリラガーデニング」などアクティビストのような手法で都市空間へアプローチする動きもありましたね。当時は日本の現状との乖離を感じていたのですが、泉山さんは社会実験を通じてその乖離を埋めていったわけですよね。今年度のNEC未来創造会議ではキーワードのひとつとして「コモニング(合意形成)」を設定しているのですが、タクティカル・アーバニズムにおいてはどうやって当事者同士や行政との合意形成を進めていくものなのでしょうか。

泉山:
まちづくりは前例主義的な考え方が強いため、社会実験のように新たな取り組みはどう受け止めればいいのか行政が判断しづらく、地域の方々からしてもいわゆるイベントとどう違うのか理解していただくのは難しかったですね。ただどんどん事例が増えてSNSでシェアされ広まっていった結果、いまはむしろ受け止められやすくなっています。非常に長い時間をかけて合意形成をつくっていくこれまでの都市計画や地区計画に対し、目の前の道路や空間が短期的に変わっていく社会実験は市民にとってもわかりやすいんですよね。