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NEC未来創造会議

1st Forum Environment
コモンズの起源から考える環境と共同体の関係性

これからのコモンズと、これまでのコモンズ
――歴史からみる持続可能性のための条件

2050年の未来からバックキャストし豊かな社会を実現すべく、NECは2017年度から「NEC未来創造会議」を実施している。さまざまな有識者との議論を経て構想した「意志共鳴型社会」というビジョンを実現すべく、現在は多くのステークホルダーとの共創活動を行うなど、議論だけに留まらず社会実装も進めるなど、プロジェクトの規模は年々拡大中だ。

昨年のコロナ禍を経て、NEC未来創造会議は社会の発展と地球の持続可能性を両立し人々のウェルビーイングを達成するために、新たな価値基準・共有財として「NEW COMMONS」という概念を提唱している。サイバー空間の活用も進むなかで、これまで地域の共同体をつないできたコモンズはいかに参照されるべきなのか。2021年度のNEC未来創造会議は、コモンズの行方を巡って議論を展開させていくこととなった。

第1回有識者会議のゲストとして参加したのは、京都府立大学 准教授の松田法子氏。これまで温泉街や水際の都市の社会・空間構造について研究し、加えて近年は、都市や人間社会の活動スケールの圧倒的な基盤である地球的な時間や地球自体の運動と共に都市や建築の歴史段階を捉えなおそうとする研究活動「生環境構築史」を提唱・展開するひとりである。

これからのコモンズを考えるためには、温泉街などの研究を通じて松田氏も対象としてきたような、日本における「入会」という実践の歴史を無視することはできないだろう。

[編註:「入会」とは、一定地域の家を基盤とする住民集団が、特定の土地を共同で所有(総有)・利用する慣習・規範を指す。土地の利用目的は、水の確保、燃料・用材・食料・家畜の飼料等にする草木の獲得、海・磯・浜・湖・池・川・山・野などでの漁猟・狩猟・採取、共同の作業場、温泉の利用などさまざまな種類がある。集団の総意にもとづき、土地利用の変更や売却が行われることもある。入会とは共同所有の事実関係で、入会権とは明治31年施行の民法によってそれが権利として規定されたものである。入会の対象地を、便宜上、入会地と呼ぶ]

『WIRED』日本版編集長・松島倫明によるモデレートのもと、NECフェロー・江村克己を交えて行われた議論は、コモンズや入会の歴史を振り返りながら、これからのコモンズを構想するために必要な考え方を整理するものとなった。

第1回有識者会議参加メンバー

  • 研究者/京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 准教授

    松田 法子 氏

  • 『WIRED』日本版編集長

    松島 倫明 氏

  • NEC フェロー

    江村 克己

新たなコミュニティを立ち上げる必要性

松島:
NEC未来創造会議は「意志共鳴型社会」という未来像を実現するために、昨年から「新しいコモンズ」のあり方について議論を続けています。今年はさらにコモンズについて理解を深めていくべく、第1回はコモンズや入会地と社会との関係について松田さんにお話を伺いながら、これからのコモンズのあり方について議論できたらと思います。

江村:
よろしくおねがいします。わたしたちは深刻化する気候変動や昨年から続くコロナ禍を受けて、技術だけではなく社会についてもっと議論を深める必要があると考えるようになりました。昨年はまず経済的な成長と地球環境の持続性をいかに両立させるか考えることから議論を始め、経済的な尺度だけではない豊かさについて議論を進めていくなかで、コモンズが重要だという結論に至ったのです。インターネットは世界中の人々をつなげましたが、人と人のつながりそのものは弱まり、社会の分断が顕在化したように思います。これからサイバー空間の活用を考えていくうえでは、ただ人をつなげるのではなく新たなコミュニティをつくる必要があるのではないでしょうか。ただ、NECはテクノロジーを活用したソリューションを多く提供していることもあり、つい議論がデジタルに偏ってしまっていて。適切なコミュニティをどうつくっていくか考えるためには、きちんとリアルな社会から考えなければいけないな、と。今日は松田さんのお話から、これまでのコモンズがどうつくられていて、どこに本質があるのか考えられたらと思っています。

松島:
江村さんがおっしゃるように、これまでのNEC未来創造会議では文明評論家のジェレミー・リフキンが経済成長と環境の持続可能性の両立について語っている一方で、経済思想家の斎藤幸平さんは経済成長をストップし脱成長を掲げるとともに、コモンズの重要性を説いていました。今回はコモンズが社会のなかでどう位置づけられてきたのか、歴史をおさらいするところから始めたいと思います。

コモンズは土地と共同体に紐づくもの

松田:
今回わたしからは、あくまでも実空間の土地に紐付いたお話を、事例的にさせていただきます。なぜならコモンズや入会は、土地それぞれの特徴に即して形成されてきたもので、非常に多様だからです。前半ではそれらの歴史を振り返りつつ、いわゆる「コモンズ」や日本の入会がどんなものなのかを簡単に整理し、後半では土地に即した事例を踏まえながら、これからの未来像をどう描けるのかということに向けて、みなさんと議論できたらと思います。お話を始めるにあたって、先日『WIRED』でもコモンズ特集を組まれていた松島さんにまず伺いたいのですが、なぜいまみなさんはコモンズに注目しているのでしょうか?

松島:
まずは近年「グローバル・コモンズ」という概念が注目されているからです。資源の持続可能性を人類があまり考えてこなかったことを受けて、資源の共有をうまく行う仕組みとしてコモンズが注目されています。加えて『WIRED』としては、もともとコモンズ的な思想が色濃く反映されていたはずのメタバースやインターネットといった技術が、いつのまにかテック企業による囲い込みによって専有化されてしまっていることへの問題意識があります。今後メタバースが広がっていくとして、そこが誰のものなのか議論すべきだと思ったんです。

松田:
なるほど。おふたりの話を伺っていると、まず必要な整理は、これから議論されようとしている対象が、利用者の熟議と合意、管理や統制が必要な共有資源なのか、それともオープン・アクセスだとみなせるものなかという点にあるのではないかと思いました。加えて、一定の境界をもって存在する地理空間の資源共有に対して形成されてきたコモンズやそれに類する世界各地の仕組みと、グローバル・コモンズやデジタル・コモンズなど外延がうまくつかめないほど広大で巨大な対象を「コモンズ」と呼ぶにあたって、そのガバナンスに到達するための議論の適切な規模やスケールの設定がうまくいっていないのではないかと感じました。

松島:
ありがとうございます。ぼくらもまさにご指摘の点に問題を感じていて、松田さんにお話を伺えたらと思っていました。