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NEC未来創造会議

3rd Forum TECHNOLOGY
新たな価値観・評価軸を体現する技術とその社会浸透

これからの「コンセンサス」をつくること
──個別最適と全体最適の調整を巡って

2050年の未来からバックキャストし、豊かな社会の実現を目指すプロジェクト「NEC未来創造会議」。NECが2017年度から開始したこのプロジェクトは、さまざまな領域から有識者を招きながら、毎年異なるテーマについて議論を重ねてきた。

2018年には議論を通じて「意志共鳴型社会」というビジョンを策定。その実現に向けてさまざまなステークホルダーとの共創活動も行なうなど、議論を経て生まれたアイデアの社会実装も進行中だ。今年度はCOVID-19の影響を受けて、これまで意識されてこなかった「経済成長」と「環境持続可能性」の両立がテーマとなり、未来を考えると同時に目の前の社会課題とも向き合おうとしている。

今年度第3回となるNEC未来創造会議は、「TECHNOLOGY」をキーワードとして「経済成長と地球の持続可能性を両立する仕組みと仕掛け、その社会浸透」を議論のテーマに据えた。建築家として多くの施設の設計を行なうのみならず都市デザインにかかわる公共プロジェクトを通じて新たな都市像を模索してきた藤村龍至氏と、メディア環境学の立場から日本の女性の「盛り」文化を研究してきた久保友香氏を招き、これまでと同じくNECフェローの江村克己と『WIRED』日本版編集長・松島倫明が参加。議論の後半ではNECのCTOを務める西原基夫も参加し、経済成長と持続可能性を両立するために必要なテクノロジーやプラットフォームを巡って議論を広げた。

第3回有識者会議参加メンバー

  • 『WIRED』日本版編集長

    松島 倫明 氏

  • メディア環境学者

    久保 友香 氏

  • 東京藝術大学美術学部建築科准教授/RFA主宰

    藤村 龍至 氏

  • NEC 取締役 執行役員常務 兼 CTO(チーフテクノロジーオフィサー)

    西原 基夫

  • NEC フェロー

    江村 克己

メディア環境学者 久保 友香 氏

越境的なビジュアルコミュニケーション

松島:
まずはひとつ目の問い「大量消費社会から持続可能な社会へとシフトする上で、個と公共のあり方はいかに変化していくのか」について議論できたらと思います。COVID-19によっていま社会が大きく変わっていますが、地球環境の持続可能性を考えなければいけない状況にあって、個人と社会との関係性や両者をつなぐ公共的なものがCOVID-19によってどう変わっていくと思われますでしょうか。

久保:
わたしはメディア環境学の研究を進めるなかで、日本人の美意識に注目してきました。これまで日本人の美意識は「わびさび」や「禅」といったかたちで概念化されてきましたが、これらはなかなか技術開発の領域に反映されてこなかった。今回のパンデミックにおいても文化ごとに対応に差が生じていますが、日本の文化から提案できるものがあるはずなのに、グローバルな数字のものさしに振り回されてしまっている気がしています。

松島:
ほかの国との比較という意味では、日本のどういったアクションがユニークなものだったといえるのでしょうか?

久保:
たとえば日本の女の子たちはビジュアルコミュニケーションを非常に重視しています。お金はないけど時間に余裕のある若い人々がコミュニケーションを重視する行動をとっていることは、未来を先どっているように思うんです。女子中高生たちは自粛をなんとも思っていなくて、家の中で動画を撮影してアップロードすることを楽しんでいる。自粛によってモーニングルーティン(毎朝の日課)を撮影した動画が流行るなど、環境が変化しても最新の技術を使いこなして適応しているんですよね。

松島:
技術の進化によって若者が「自撮り」だけでなくさまざまなコンテンツを生み出せるようになっていて、なおかつオンラインへの越境も盛んに行なっていたわけですね。

久保:
そうなんです。彼女たちは自然に世界中の人々とも交流していますし、逆に家にいることですごく交流が広がっているのだなと気づかされました。

松島:
なるほど。ある種の“公”というか、新たな社会が形成されていたかもしれないといえそうです。

全球的問題への対応

松島:
藤村さんはいかがですか?

藤村:
今回のCOVID-19では、全球的な規模の公共的課題に世界中の人々が直面していますが、こんな機会は近代以降初めてでしょう。地球温暖化や食糧危機といった問題がこのあと確実に深刻化することを踏まえると、地球規模の課題にどう対処するか考える予行演習の場が生まれているともいえる。今後100年の世界の変化を考えるうえでは、個の権利や自由だけを考えていてはもはや課題を解決できないわけで、全体を考える重要性はますます高まっている。共通体験としては貴重な機会だったと思いますし、今回の経験をどう活かすかが問われていくのだと思います。

松島:
なるほど、今日の議論ではまさにその“活かし方”を考えられたらと思います。江村さんはいかがでしょうか。

江村:
藤村さんが仰った「全球」というのがゴールですが、一方ではさまざまな規模のコミュニティがありますよね。家族やスポーツのチーム、学校のクラスや会社組織などバリエーションはありますが、人が管理できるのは100〜150人と言われていて。

松島:
人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数は「ダンバー数」と呼ばれますよね。

江村:
そういったコミュニティのなかでのコンセンサスのとり方が問われているように思います。みんなで一緒に課題を解決しなければいけない一方で、個々のコミュニティのなかにいる個人を考えないといけない。また、久保さんが仰っていた「時間の余裕」もヒントになるのでは、と。これまで多くの大人は働くことに価値を見出していたけれど、地球環境を考えるとどんどん働いて新しいモノをつくりつづけることは難しくなっている。今後はもっと少ない時間で働いてほかの時間をべつのことに使うようになっていくわけです。その点、若い人の方が技術の進化に合わせて時間の使い方を変えていくことに長けているのかもしれません。

東京藝術大学美術学部建築科准教授/RFA主宰 藤村 龍至 氏

主体性重視という“神話”

松島:
江村さんが指摘されたコンセンサスの問題は、今回のテーマを考えるうえでも重要そうです。藤村さんは建築にずっと関わられていますが、公共的な空間のなかでコンセンサスをとっていくことも多いと思います。

藤村:
わたしが建築を学びはじめた1990年代なかばから建築家の立場がどんどん弱くなってきて、合意形成にものすごいコストをかけるようになっていきました。もちろん公共建築へ市民が関わることや丁寧な合意形成は重要ですが、日本の社会では徐々にそれが形骸化されてしまい、まちづくりでも公共建築の現場でも些細な意見に振り回されるような状況が生まれてしまった。ビジョンの策定や意思決定が難しくなっていますよね。結果として、渋谷がこういう街をつくりたいと言ったら渋谷はこうするというかたちで個々の街のビジョンはその街の人々が一生懸命考えてはいても、東京全体を考える人がいなくなってしまった。個の主体性を重視することが社会をよくするというある種の“神話”が1990年代ごろから信じられてきたけれども、徐々にその神話が揺らいでいき、COVID-19がとどめを刺したように思います。

松島:
今年のプレ有識者会議でも、全体最適と個別最適が比較されていました。一人ひとりの人間は全体最適が苦手なのに対してある種のアルゴリズムは全体最適が得意なので、両者をうまくつなぐことが課題なのだ、と。藤村さんから見ると、個別に最適化を進めてきた流れにいま揺り戻しがきているということでしょうか?

藤村:
そうですね。これまでは個の力がネットワーク化されてポストモダンな文化的状況がつくられてきましたが、いろいろな場面で行き詰まりはじめていますよね。建築やまちづくりはいま、民主主義と大衆主義の間で揺れ動いているのだと思います。

場に身を投じていくこと

松島:
藤村さんも大宮駅前の公共施設「OM TERRACE」など、公共的なプロジェクトに携わられていますよね。ご自身の取り組みを振り返ってみても、変化は感じられますか?

藤村:
建築家はその時代の権力と付き合うことが仕事のひとつだと思うんですが、いまの権力は「市民型権力」と呼べるもので、市民の発言がもつ力が非常に強い。ひとつでもクレームが入ると逆らえないような時代ですよね。そのため、丁寧に市民の意見を聞いていき、合意形成にコストを払ってクレームを処理していかないと建築の設計も進まないような時代になっている。たとえば丹下健三もあの時代に生きていたからああいった仕事をしていたわけで、いま彼が生きていたらワークショップをしていたと思うんですよね。いまは“フィクション”としての建築家像が成り立たず、ワークショップを行なって市民とともにつくっていくような建築家像が求められている。

松島:
地域の人々からすると、ワークショップに参加するというのはいったいどういった体験なんでしょうか。いままでのようにできあがった建築を享受するのではなく、みずからが設計に参加していくわけですよね。

藤村:
もちろん大変なことばかり起きるわけではなくて、本当に感動する瞬間が訪れることもたくさんあります。自分がまったく思いつかないようなことを街の人が教えてくれるとか、話し合っていくなかで思いもよらなかった解決策が出てくるとか。やはりワークショップにはクリエイティブな瞬間が生まれるので、建築家としてはそういう場をつくっていくことも基本的な仕事のひとつだと思いますね。

松島:
なるほど、単に市民が言いたいことを言うだけではなくて、クリエイティブな合意形成が生まれることも大いにある、と。

藤村:
ただ、声が大きい人の意見を覆せないとか、往々にしてネガティブな側面があるのも事実です。わたし自身としては、より多くの人が参加すればするほどよりよいものができると言い切らなければ、現代においては民主主義というものを肯定できないように思います。なので、建築家はこうした環境の変化に対して自虐的になるのではなく、多くの場に飛び込んでいくべきだと感じています。