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NEC未来創造会議

2nd Forum SOCIETY
経済成長と地球の持続性を両立する社会の在り方

都市に「コモン」を取り戻す
──私たちのものを、私たちが管理する重要性

「Economy of Life」から社会を考える

江村:
これまでとは違う視点から経済を回していくうえで、フランスの思想家ジャック・アタリが提唱している「Economy of Life(命の経済)」が重要だと思っています。この概念は、エッセンシャルワーカーと呼ばれるような方々が従事する医療や物流に加え、教育や文化など命を守るための産業から経済を考えるもの。ひとつの企業だけでなく社会全体でこうした経済をどう回していくか考えていくべきですし、その変化は斎藤さんの仰る「コミュニズム」とも合致するように思います。今回のコロナ禍でもヨーロッパでは医療従事者へのリスペクトが高まっていましたが、日本ではあまり大きなムーブメントは起きなかったように思います。その意識も含めて、みんなで社会をデザインしていくことが重要ですよね。

斎藤:
江村さんが仰るようにエッセンシャルな仕事が本当の意味での経済を回しているのに、実際は金融市場が巨大化して私たちは振り回されてしまっています。今回のコロナショックによって、結果的にそれまで見失ってきたものを見つけなおせたようにも思います。これからはエッセンシャルな――私たちの生活に必要なものを、自分たちの手で管理していくことが重要になると思っています。ライフラインを公共財に、「コモン」にしていくべきでは、と。コモンに基づいた社会という意味で、コミュニズムになっていく。そのなかでは経済活動も単に経済成長を目指していくものではなく、やりがいや地域への貢献を重視するようになっていくはずです。

松島:
なるほど、公共財として設計していく、と。

斎藤:
そのうえで、こうしたエッセンシャルワークをもっと高く評価しようじゃないか、と。いわゆる企業も残っていくと思いますが、そういう方々を支援したり、もっと自由な働き方を進めて人々の自己決定権を増やしていけばいい。企業が独占するのではなく、オープンソースのものを増やしたりシェアの文化を広げていくことで、NEC未来創造会議が提唱している意志共鳴社会も実現できるように思います。

NECフェロー 江村 克己

コモンは“スケール”するのか?

江村:
コモンをつくるうえで気になるのは、スケールの問題です。ある程度小さなコミュニティならつくりやすいと思うんですが、東京のように大きな都市でそれが実現できるのか。スケールが大きくなると一人ひとりの意見が反映されづらくなり、結果として議会制民主主義のようなシステムに頼らざるをえなくなる気もしていて。私たちとしては、NECを実験場としてその問題について考えたいと思っているんです。NECは国内に2万人超、グローバルを含めればのべ11万人ほどの社員がいるので、まずはその規模感でどんなコミュニティをつくれるかチャレンジできたらと。斎藤さんには、どんなところに実践の糸口を見出していけばよいかお聞きしたいんです。

斎藤:
パリの水道の再公営化がわかりやすい例ですね。パリではかつて水道が民営化されたことで値上がりしたうえに水質そのものも下がってしまって。その後市民運動を経て数年前に再公営化されたんですが、こうした動きを経て、公有財産であるからこそ自分たちの意見を反映する余地が残っていることに人々が気づいていきました。

松島:
なるほど、コモンを取り戻していくなかで気づいていくのだと。

斎藤:
べつにすべての市民が参加するわけではなく、興味をもっている市民がきちんと情報を得て議論できる状況が重要なのだと思います。まずはコモンになりうる領域が広がっていることを知るのが大事ですね。新しいコモンの領域はいろいろなところに広がっていて、たとえば近年のプラットフォームサービスを考えてみても、いまはひとつの企業がプラットフォームを独占してユーザーから多額の手数料を巻き上げている。でもコモンとしてのプラットフォームができれば、仮にひとつの企業の収益は減ったとしてもユーザーが増えてべつの成長が生まれるかもしれないし、わたしたちの社会全体は豊かになるかもしれない。ユーザーが参加できるような、開かれたプラットフォームを増やしていくことで、コミュニズムにもつながっていくのだと思います。

開かれたコーポラティヴィズムの可能性

松島:
面白いですね。『WIRED』でも「ニュー・エコノミー」の特集をつくった際にプラットフォーム・コーポラティヴィズムを取り上げています。企業にも協同組合のような枠組みを導入することで、斎藤さんの仰る開かれたプラットフォームへと企業が変わっていける可能性もありそうです。ポートランドでもコーポラティヴィズムのような意識が発達している気がするのですが、実際にプラットフォームを共有するような動きは生まれているのでしょうか?

山崎:
たくさん出てきていますね。ぼくらは農家と集団で直接的に契約し、「コミュニティ・サポート・アグリカルチャー(CSA)」と呼ばれる取り組みを進めています。農家が中間業者を介して市場に出すのではなく、欲しい人たちがそれぞれ買い付けられるようなプラットフォームをつくっている。契約した農場でつくられたものは、どんなときにどんなものが来ても買うことになっているんです。だからシーズンのはじめはポロポロと送られてくるくらいですが、夏になると箱いっぱいの野菜がたくさん送られてくるし、たくさん届いたときは同僚におすそ分けするようなこともありました。こうした仕組みはどんどん進んでいる様に思います。

松島:
生産量が不安定になっても、購買している人たちが直接農家の方々を支援することで収入を保証されるわけですね。お互いがメリットを生む関係性を築ける。

江村:
企業の視点からすると、需要をきちんと把握して生産や流通を最適化することで利益をあげようとしてしまうんですが、CSAは逆の発想ですよね。効率をどんどん上げていこうとすると資本主義の論理が、ビジネスのデザインにも影響を及ぼしているのだなと気づかされました。ただ、重要なのはあくまでも人を中心にして考えることだなと。そのうえで、企業がどんなアクションをとりうるのか考えていかなければいけないと思います。