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NEC未来創造会議

2nd Forum SOCIETY
経済成長と地球の持続性を両立する社会の在り方

「成長」ではなく「発展」をめざして
──視点を変えることで見える新たな経済価値

NECが2017年度から開始した「NEC未来創造会議」は、2050年の未来からバックキャストしながら豊かな社会の実現を目指していくためのプロジェクトだ。文化人類学やデザイナー、法学者など国内外からさまざまな有識者を招き、3年にわたって議論を重ねてきた。

現在は議論を通じて生まれた「意志共鳴型社会」というビジョンを実現すべく、さまざまなステークホルダーとの共創活動を行なうなど社会実装のフェーズへプロジェクトは移りつつある。COVID-19の流行や気候変動など世界が急速に変わっていくなかで、NEC未来創造会議の活動はよりリアリティが高まったともいえるだろう。

今年度第2回となるNEC未来創造会議では「SOCIETY」をキーワードとして「経済成長と地球の持続性を両立する社会の在り方」をテーマとし、従来のような経済成長と地球環境の持続可能性のバランスをどうとるべきか議論した。マルクス主義を専門とし現代の資本主義に疑義を唱える気鋭の経済学者・斎藤幸平氏とアメリカ・ポートランドで持続可能な都市開発に取りくんできた都市計画家の山崎満広氏をゲストに招き、昨年度から引き続きNECフェローの江村克己と『WIRED』日本版編集長・松島倫明が参加。ふたつの両立を「不可能」とすることから始まった議論は、資本主義とは異なる経済のあり方や開かれたテクノロジーという新たな技術像を提示しながら次なる社会像を構想していった。

第1回有識者会議参加メンバー

  • 『WIRED』日本版編集長

    松島 倫明 氏

  • アントレプレナー/ストラテジスト

    山崎 満広 氏

  • 大阪市立大学大学院経済学研究科・経済学部准教授

    斎藤 幸平 氏

  • NEC フェロー

    江村 克己

COVID-19以前への回帰は「地獄への道」?

松島:
本日はよろしくお願いいたします。まずは、ひとつ目の問い「経済成長と地球の持続性の両立という目標を達成するために設定すべき「発展」に変わる価値観とは何か?」について議論できたらと思います。今年はCOVID-19によって世界経済が停滞した一方で、環境汚染の状況が大きく改善されました。どのように経済を再開すれば成長と地球の持続可能性を両立できるのか、世界中で議論が行われています。斎藤先生はどのような再開に可能性があるとお考えでしょうか。

斎藤:
日本では元の社会・経済に戻ろうと考える人も非常に多いですが、持続可能性の観点からすれば元通りとは「破滅の道」に戻ることだと思っています。気候変動の観点では2050年までに二酸化炭素排出量をゼロにしなければいけないと言われているなかで元の状態に戻っても、経済成長と持続可能性の両立とはかけ離れた社会になってしまう。そのためいまヨーロッパでは、両立のために「グリーンリカバリー」という成長のあり方が議論されていて、持続可能な再生エネルギーや新しい移動手段の開発へ投資を進めようとしている。日本にはあまりそういった流れが生まれていないですよね。

松島:
山崎さんがいらっしゃるポートランド市はグリーンシティとも言われますし、COVID-19以前から持続可能な都市の可能性を追求していたように思います。山崎さんは成長と持続可能性の両立についていかがお考えですか?

山崎:
そうですね、ポートランドでは2010年ごろからグリーンリカバリーのような持続可能性に特化した開発が進められていました。それは企業単位だけではなく都市計画のレベルから行われる包括的なもので、2013年からは「We Build Green Cities」といって計画や開発の技法の輸出も進められています。こうした考え方が、2020年になってようやく広く受け入れてもらえるようになったように思います。

松島:
日本でも2017年ごろからポートランドが紹介される機会が増えていましたが、日本にポートランドの考え方が広がっているような手応えはありますか?

山崎:
正直に言えば、ぼくが関わっている範囲ではあまり感じられません。ただ、小さな変化を感じる機会は増えています。たとえば大都市の一極集中に限界を感じて地方都市へ移住する人々が増えているように、トップダウンというより個人が動き始めているのは頼もしいですね。

アントレプレナー/ストラテジスト 山崎 満広

「成長」ではなく「発展」を目指す

松島:
江村さんは今回の問いについてどのようにお考えでしょうか。

江村:
これまでの未来創造会議でも人と社会と環境と未来をどうバランスさせるか議論していましたが、コロナ禍を経てより逼迫感が高まったように思います。ただ、おふたりの言うとおり日本は遅れているかもしれません。ヨーロッパではグレタ・トゥーンベリさんの活動から大きなムーブメントが生まれていますが、日本では大きな動きも生まれていませんから。今回テーマにしている両立を考えると、地球の持続可能性は絶対に担保しなければいけないものですが、同時に経済成長も必要だと思っています。ただ、これまでは経済成長とCO2の排出がカップリングしていて、成長することが地球を壊すことになってしまっていた。この関係性を壊すためのアクションをいかに起こしていくかが重要です。

松島:
「成長」という言葉については、斎藤さんが「脱成長コミュニズム」という考え方を提唱されていますよね。

斎藤:
経済成長と持続可能性は両立しえないと私は思っているんです。江村さんが仰ったように、二酸化炭素の排出と経済成長のデカップリングは重要なのですが、資本主義がつねに拡大を目指さざるをえない以上、どこかで経済成長自体を意識的にスローダウンさせなければ気候変動のような問題は解決が難しい。これまでのように「成長」を繁栄の基準とするのではなく、「発展」を考えたほうがよい。家で家族とゆっくり過ごす時間だったり、楽しい体験をシェアできることだったり、GDPには反映されない生活の質を高めてもいいはずです。発展と持続可能性は両立するはずですから。

松島:
一方で、山崎さんはこれまでの経済の論理を維持しつつ持続可能性を担保する道を探られているように思います。

山崎:
一般的に「経済」というと資本主義やお金まわりの話になってしまいますが、実際の生活圏のなかで生じている小さな「経済」に注目したほうがいいと思っています。斎藤さんが仰ったような生活の質の向上を数値化できれば、経済成長を制御しながらも新たな価値を得ていくような仕組みをつくれるはずです。それこそが、新しい経済成長の形なのかなと思いますね。ぼくらはつねに新しい市場を開発して利益を生み出すような経済の形を学んできましたが、新しい土地や空間なしでも新たな価値は生み出せるはずです。

大阪市立大学大学院経済学研究科・経済学部准教授 斎藤 幸平