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NEC未来創造会議

1st Forum INDIVIDUAL
人生100年時代を豊かに生きるキャリア構築

多様な価値観を取り込むための「メタ感性」
──問いとフォーマットの外部にこそ本質はある

2050年の豊かな社会の実現に向け、NECは2017年度から「NEC未来創造会議」と題したプロジェクトを進めている。本プロジェクトはテクノロジーや人の意識といったさまざまな観点から国内外の有識者を招き、わたしたちがどんな世界を目指していくべきなのか議論を行なってきた。

2018年度には議論を通じて2050年の社会像として「意志共鳴型社会」というビジョンが生まれ、2019年度からはさまざまなステークホルダーとの共創活動など社会実装に向けた取り組みも進めており、プロジェクトの規模も順調に拡大している。COVID-19の流行によって社会や経済が大きく揺れ動くなかで、NEC未来創造会議の重要性はより一層高まっているともいえるだろう。

今年度第1回となるNEC未来創造会議では「INDIVIDUAL」をキーワードとして「人生100年時代を豊かに生きるキャリア構築とは?」をテーマとし、個人にフォーカスして議論を行なった。高校卒業後すぐにMITメディアラボの研究者となり異色のキャリアを築いてきた片野晃輔氏と、日本人女性唯一の数学オリンピック金メダリストにしてジャズピアニストとしても活躍する中島さち子氏を有識者として招き、昨年度から引きつづきNECフェローの江村克己と『WIRED』日本版編集長・松島倫明が参加。さらに終盤ではカルチャー変革本部長兼人材開発部長としてNECの組織づくりに尽力してきた佐藤千佳も議論に加わった。侃々諤々の議論からは、単なるキャリア構築を越えた、いま個人や組織が身につけるべき思考のあり方が見えてきた。

第1回有識者会議参加メンバー

  • 『WIRED』日本版編集長

    松島 倫明 氏

  • 一般社団法人シネコカルチャー 研究員

    片野 晃輔 氏

  • ジャズピアニスト/数学研究者/株式会社 steAm 代表取締役

    中島 さち子 氏

  • NECシニアエグゼクティブ カルチャー変革本部長 兼 人材組織開発部長

    佐藤 千佳

  • NEC フェロー

    江村 克己

多様な視点から「メタ感性」を身につける

松島:
本日は「人生100年時代を豊かに生きるキャリア構築」をテーマに、日本において先進的なキャリアを積まれながらご活躍されているふたりをお迎えして議論を進めていきたいと思います。早速、ひとつめの問い「個人の能力・選択」について。パンデミックによってまさにいま人々の価値観が大きく変化している時代だと言われますが、どんな能力があればさまざまな領域を行き来しながら自分だけのキャリアを選択できるのでしょうか。まずはこれまでの人生のなかで大きく価値観が変わった経験についておふたりにお話を伺えたらと思っています。

中島:
価値観は日々変わりつづけている気もするのですが、わたしの場合は高校2年生のときに国際数学オリンピックでインドに行ったことが大きいですね。そこで100カ国くらいの方々とお会いして、いろいろな生き方があることや自分にとっての当たり前がぜんぜん当たり前ではないことを知ったんです。ヴァーチャルの世界もすごく面白いし可能性は感じるのですが、リアルの空間で出会うことはやはり大きな力をもっていると思います。数学オリンピックではアルゼンチンやルーマニアなど少し変わった国に行けることが多くて、いろいろな子どもたちに会うことで生き方の可能性が広がった気がしますね。

松島:
あちこちの国を巡るなかで勉強したくてもできないような子どもたちもたくさんいるという現実を見たことが、いまの中島さんの活動にもつながっているのだと思います。片野さんはいかがですか?

片野:
小学生や幼稚園生のころにたくさん映像作品を観たことで、いま見えている風景も多様な人の視点を通してさまざまな切り取り方ができるんだなと気付かされたことを覚えています。ほかの人のフィルターを通すとこんな見え方になるのかという驚きを通じて価値観が変わっていったなと。その後中高生のころは、自分の感性を確固たるものにしていくことをすごく意識していました。高校時代はどんな研究を行なうか考えるためにたくさんの人に会いに行っていたのですが、あるとき尊敬している人と面白い研究について話していたら「この研究は面白いけどクールじゃないよね」と話されていて、何だその価値観はとショックを受けたんです。技術をつくった人や研究している人の素顔を知ることで、その研究の深みにたどり着けることを知りました。いろいろな感性+αの感性というか。感性の奥で眠っていたメタ感性みたいなものかもしれません。

不便と不満によって磨かれる感度

松島:
メタ感性というのは面白いキーワードですね。研究といえば江村さんも長年日本の第一線で研究を続けてこられたと思うのですが、そのなかで見えてくる感性やその変化についてはいかがお考えですか?

江村:
私はNECでずっと研究に携わっていましたが、続けていると研究の方法や物の見方が固定化してしまうんですよね。決まった生活を送っていると、価値観も徐々に固まっていってしまう。それをつねにほぐしていくことが重要だと思うんですが、おふたりはかなり自由にいろいろなことを感じられているんだなと。それは感性というより「感度」が高いからだと思うんです。おふたりは少し違うものに気づける度合いが普通の人より高いのかもしれません。

松島:
決められた場所にいると感性や感度も摩耗していきますからね。片野さんは高校からそのままMITメディアラボに進まられたことで知られていますが、固定観念を外していくような感覚は普段から意識されているんでしょうか。

片野:
そうですね。いままさに生態系の拡張や人類の創意工夫の拡張について研究しているのですが、すべての人間がもつすばらしい能力のひとつに、いろいろなことに「気づく・気づける」能力が挙げられると思います。京都に不便益システム研究所という不便/不満から得られるものを研究する機関があるのですが、満たされている状態からなかなか気づきは得られないと思うんです。利便性を追求すると徐々に個人の自律性が失われていくとイヴァン・イリイチも語っています。ぼくにとっても、不便や不満から得られた気づきは大きい。

松島:
なるほど。

片野:
いま生物学の民主化をテーマに研究しているんですが、多様な価値観を取り込もうとするなかで、いろいろな問題と向き合っている人たちの声を聞き入れることが何よりも自分に気づきを与えてくれるんだなと実感しています。

一般社団法人シネコカルチャー 研究員 片野 晃輔 氏

問いから外れることで本質を捉える

松島:
気づくという点では、たとえば数学も解法に気づくような瞬間がありそうだなと思っています。中島さんは感度や気付きについて意識されていることはありますか?

中島:
数学や音楽って創造性の民主化の世界だと思っています。どちらも学校教育のなかでは決まった答えがあるように思われるかもしれないけれど、実際はむしろその答えを外していくようなことが大事で。先人たちがつくってきたものを完成した知として受け取ってしまうと面白くない。先人の知を受け取りながらも、そこから自分自身が広がっていくことが重要ですよね。それは数学や音楽に限らず人生でも教育でも一緒な気がします。

松島:
数学はある種の解決に向かって突き詰めていくイメージがある一方で、音楽は決まった譜面から自由に広げていくようなイメージがあるのですが、ご自身のなかでは割と同じようなものとして捉えられているんですか?

中島:
少しずつ異なる部分はありますが、似ているなと。たとえば数学でもそもそも1ってなんだろうとか、距離ってなんだろうとか、問いの枠組みを外していくことが面白い。ただ外せばいいものではなくて、本質は何か常に考えていかなければいけない。もちろん本質は簡単には見えないので、万華鏡のようにたくさんの顔があるものに対して、いろいろな方向から光を当てていくような行為の繰り返しなのですが。

松島:
音楽も同じなんでしょうか。中島さんはジャズピアニストでもありますよね。

中島:
ジャズはかなり自由度が高いんですが、もちろんフォーマットはあるんですよね。先人がやってきたことをコピーしつつ、ライブの瞬間ごとにコミュニケーションがあって、一期一会に生まれるなにかがある。自分ひとりじゃないからこそ生まれるもの。それは数学や音楽に限らず、すべてが総合的なものなのだと思います。