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NEC未来創造会議

3rd Forum VALUE & TRUST
ミラーワールドにおける“価値“と”信頼“とは?

「価値包摂」が“共鳴”と“実装”のキーワード
──ルールを変え、新たな社会を可視化するためのヒント

コミュニティをつなぐ価値観の「為替」

スプツニ子!:
最近、オンラインサロンがすごい興味深いなと思っています。たとえば宝塚ファンは熱狂的ですごいですよね。あの世界のなかでしか分からない価値の基準があるわけです。そのやりとりも行われていて、オンラインサロンがミニ社会のように見えることもある。

松島:
宝塚は熱狂的な世界があると言われますね。

スプツニ子!:
だから衣食住と移動の自由が保証されていて、あとはいろいろなオンラインサロンに所属しているという社会のかたちもあるのかなと思いました。宝塚ファン的ないくつかのコミュニティのなかで、コミュニケーションと価値のやり取りを行なっていく。通貨とかもそのオンラインサロンのなかで生まれるかもしれないですし。

松島:
もう貨幣ネットワークも、一つひとつがサロンのなか生まれうるわけですね。

スプツニ子!:
そうです。価値のやりとりがコミュニティごとに生まれてくる。コミュニティごとにモラルや善悪の基準も変わりますよね。

大屋:
そこには価値のトークンの多様性がありますよね。

スプツニ子!:
宝塚ファンのコミュニティに行ったら、誰かと目が合ったみたいなことが信用のトークンになりうるというか。

大屋:
結局、いまの社会の効率化のひとつの問題は、本来いろいろな価値軸に応じたトークンがあってその交換で人々の関係が成り立っていたのに、金銭やSPI、偏差値みたいなかたちで縮減してしまっていることでしょうね。それは情報量が増えると相手に対する全人的な評価を行なう時間がなくなっていくからでしょう。小さなコミュニティのなかならできるかもしれないけれど、社会全体でできるわけではない。だから個人の評価能力の問題点を支援できるようなテクノロジーが出てくれば、われわれはもう一度多様な評価軸を活性化させられるかもしれない。

江村:
そこで人はそれぞれいくつかのコミュニティに入るわけですよね。それで、ひとつのコミュニティで得たバリューをべつのところにもっていくこともある。価値観と価値観を交換する為替レートみたいなものが出てくるはずです。その為替レートはコミュニティ間によっていろいろなパターンがあるわけで、それをデザインできると面白そうですね。2050年くらいをイメージすると、実際にそうなっていそうな気もします。

ダイバージェンスする新たな通貨

松島:
いまは会社員だけどオフの時間はまたべつのコミュニティで生きていてというふうにもっと分散化していけるといいですよね。地域通貨・マイクロ通貨みたいなものをみんなたくさんもっていて、30のコミュニティに属している人は30通りの通貨をもっている世界になるとか。あるいは、先程の議論のようにひとつのスコアをコミュニティごとに使い分けるみたいな可能性もあるかもしれませんね。

大屋:
ある意味で、そういうふうに通算可能にした典型的なモデルが貨幣なわけですよね。多様な価値を通常の金銭とは異なるかたちで評価しようとして地域通貨や仮想通貨が生まれたりもしましたが、結局貨幣の亜流にとどまっている気もします。それは交換可能性を考えると貨幣が非常に便利だからでしょう。形があって匿名性があって通用力が国家に担保されているのはものすごく便利ですから。

江村:
昨年度の有識者会議でスプニツ子!さんから「無駄のバリューアップ」という言葉が出てきたように、これからはいままで違うことに価値を見出すことも増えてくるでしょう。多様な生き方が出てきたときに新しい通貨をデザインできるといいですよね。

松島:
現代の基軸通貨のようなものはコンバージェンスする方向に収斂していくけれど、ダイバージェンスするトークンみたいなものは設計できるかもしれないですね。ダイバージェンスを支援するような“通貨”を考えるのは、新しい社会設計を考えるうえで面白い挑戦といえそうです。

大屋:
これまで多様な価値観にもとづく交換を成立させようとすると、結局共通単位としての貨幣に頼らざるを得なかったといえるかもしれません。しかしたとえば宝塚のコミュニティがその価値観にもとづくネットワークをつくって助け合えるのであれば、わざわざ通貨やトークンに変換しなくても機能していく可能性はありますよね。

共鳴しないとルールは変わらない

松島:
ぼくらはインターネットによってある種の拡声器を手に入れたわけですが、実際の社会に実装していく部分がいまのネットのインフラは非常に弱いと感じています。だから『WIRED』でも実装を取り上げているのですが、なかでもルールメイキングはいま非常にイノベイティブだと感じていいて。

大屋:
オリバー・ウェンデル・ホームズというアメリカの有名な法律家がいて、ルールをつくる法律家は悪人の視点をもつ必要があると語っています。なぜなら、制度は必ず悪用する人が出てくるから、法律家はその悪用に対して強靭なシステムをつくらないといけない。そのためには、ただ同じ観点の人が集まって共感だけしていても仕方がない、と。だから自分と違う価値観をシミュレートして悪用されないシステムを構築するために、「共鳴」が必要になってくるということです。それがないと、実装は起きえないのではないかと思いました。

スプツニ子!:
一方で、とりあえず実装することもすごく大事だと思っています。実装しないうちにも社会はどんどんほかのことが実装されてしまうので、実装しながら考えていくことが重要。ある意味で、今日議論していた中国のシステムもいろいろな問題点があるように思えるものの、走ってる時点で改善される可能性もあると思っています。

大屋:
日本でも、社会全体が変わっていけることをきちんと可視化すれば、変化への意思決定を支えることができるかもしれません。もちろん、変わることで排除される人が出てくるのはよくないので、セーフティネットをきちんと確立することも重要です。

江村:
今回、改めて社会にはさまざまな価値観があると実感しました。しかし、閉ざされた価値観のなかにこもっていては共鳴できない。共鳴しあうためには、多様な価値観が、互いに尊重し合って、支えあっていくような“価値包摂”が大切になってくると思いました。今回の議論の内容を反映させながら、前回の有識者会議で出てきたコモングラウンドのコンセプトを突き詰めていくことで、未来への「答え」ではなく「選択肢」を出せる可能性があると考えています。NECとしては、“価値包摂”を踏まえながら、その選択肢をできるだけ可視化できるような仕組みをつくって、実装へと貢献していきたいと思っています。

松島:
コモングラウンドのなかでも一様な価値や一様の信頼があるわけではなく、そのなかで多様性をもちながら共鳴を起こしていく、と。テクノロジーを使ってその準備を進めたり、その選択肢を可視化してくことは大いに可能性があるのかもしれませんね。

江村:
はい。それが、意志共鳴型社会の実現に繋がっていくと思います。

3回目を迎えたNEC未来創造会議は、これまでの「RELATIONSHIP」と「EXPERIENCE」をテーマとした回の議論を引きつぎながら、さらにその内容を深めている。今年度の議論が特徴的なのは、つねに実践や実装の視点が織り交ぜられていることかもしれない。今回の会議も、単に多様な価値を包摂していくことやオルタナティブな評価軸をつくることの重要性を提起するのみならず、実装のフェーズにも議論は広がっていった。

次回、今年度最後の有識者会議のテーマは「LEARNING/UNLEARNING」。これまでの会議で議論してきた内容を実際に社会に実装していくためには、人々が「学び」と「挑戦」に取りくめる環境をつくらねばならない。学ぶこととは、単に新たな情報をインプットしつづけることではない。ときにはUNLEARNINGこそがLEARNINGへつながる道でもあるだろう。「相互作用」「共体験」「価値包摂」と毎回新たなキーワードを導き出してきた今年度の会議は、果たしてどこに向かうのだろうか。