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NEC未来創造会議

2nd Forum EXPERIENCE
ミラーワールドから“体験“を再定義する

万博・コモンズ・共体験
──これからの社会実装に必要なものをめぐって

2025年大阪・関西万博という名の新たな「実験場」

松島:
豊田さんがおっしゃっているようにいろいろな可能性が閉じてしまっている一方で、たとえば6年後に大阪で開催される「2025年日本国際博覧会」(以降、2025年大阪・関西万博)は新たな可能性を開いていくチャンスでもあります。同時に、その可能性をどう広げていくかも問われている。豊田さんはどうお考えですか?

豊田:
実際に住んでいる人のいる都市のなかで社会実験を行なって、次の時代のプラットフォームを社会実装することは難しくなっていますよね。GAFAのように都市をつくったり買収したりして壮大な社会実験を行なうことも、いまの日本企業には難しい。その点、2025年大阪・関西万博は半年間だけの仮想都市をつくって実験を行なえるチャンスでもあるので、非常に大きな価値がある。万博が終われば壊すから社会的なリスクもないし、住民の反対もない。データとノウハウだけ得られるわけですから。

松島:
なるほど。

豊田:
だからこれまでの万博とはまったく異なった構造をつくってあげないと、それに向かって準備もできないと思っています。いまはまだパビリオンがつくられることくらいしかみんなイメージできていないと思うのですが、それは巨大な社会的損失でしょう。

江村:
豊田さんがおっしゃっているコモングラウンドも、いまはいろいろな行政組織の構造のせいで実現しにくい部分があるけれど、万博のような場があれば挑戦できるということですね。

松島:
非常にたくさんの人が来るわけですから、新たなテクノロジーやシステムを社会に認めさせるチャンスですよね。

豊田:
予想では2,700万人と言われていますね。そのときは人だけじゃなくてバーチャル来場者だったりアバター来場者だったり、いろいろな来場者がありうると思っています。だからチケッティングの方法にもいろいろな可能性があって、たとえば普通だったら8,000円だけど、2時間だけ自分の身体をアルゼンチンの少年にアバター提供して代わりに動いてあげれば6,000円になりますとか。ロボットアバターやARアバターがあってもいい。「参加」という概念自体ぜんぜん違うわけですから。

水口:
2025年は間違いなく、扱うものが目の前に存在していて触れられるものだけではなくなるはずです。だからたとえばミラーワールド的な世界も同時に存在していて、2025年大阪・関西万博がある種の特区として世界中どこからでも入れるとか、移動しなくてもある程度万博を体験できるとか、いろいろなアプローチがありうる。一方で実際に会場を訪れると、タンジブルとインタンジブルが組み合わさった非常に豊かな体験が味わえるようになっているといいですよね。

「共鳴」から「共体験」への進化

水口:
いろいろな意志をもって同時に動いている人がリアルにもいるしバーチャルにもいるし、それを統合してアーキテクトするという発想があればこの社会は絶対次のフェーズに行けると思います。そこでつくられた形式がこの先の30〜50年を形づくっていくのではと。会場に来ていろいろな体験をする子どもたちが数十年先の経済や文化をつくっていくわけですから。また、万博はテンポラリーなものである種お祭りのような側面もあるので、住民の方々も協力してくれやすいように思います。

松島:
都市そのものがこれから変わっていくうえで、新たな体験をもたらすテクノロジーとそれを可能にする信頼をいかに担保すべきか考えていかなければいけませんね。

豊田:
オープンであることやソーシャルコンシャスであることが前提となったとき、やはり万博のようにテンポラリーでひとつの企業や団体が一元的に管理しないプラットフォームの重要性は増しています。その点、「意志の共鳴」の「共鳴」という言葉はすごく面白いなと感じました。共鳴って振動の往復ですよね。共感だけだとどんなに高次元の情報でも一方向な感じがある。ただ、これから5Gを超えて6G、7Gとなったときに、身体情報も瞬時に共鳴して「共体験」のようにお互いが同時に影響を与えあえるかもしれない。それは大きな単一企業が社会を束ねるような一方向の構造だと実現しにくいのではないかと思いましたね。

江村:
松島さんがおっしゃった「信頼」は、次回の会議のテーマでもあります。信頼は都市の大きさとも連関していると思っていて、1,000万人都市というとシステマティックにしなければいけないけれど小さいサイズにすれば昔のコミュニティのようになる。信頼に基づいてデザインされたコモンズのようなものを、どう取り戻していけるのか。コモングラウンドのように情報が揃ったものをつくることは現段階で難しくとも、みんなで適切なサイズを探っていけるといいのかなと思います。

豊田:
じつは、コモングラウンドとはもともと言語学の概念です。一対一でもグループでも、会話が成立するときって言葉や概念に対してイメージされる世界が共有されている。そんなコモングラウンドがなければコミュニケーションは成り立ちません。ただ、それをつくるためには歴史や社会が前提として共有されていなければいけない。その素地は単に技術だけでつくれるものではないのが、面白いところでもあると思います。

謙虚な姿勢が可能性を開く

松島:
今日の議論のなかで、いろいろなヒントをいただけたように感じます。ひとくちにミラーワールドといっても、世界全体を巻き込む大きな話のままだと実装は難しい。そこで、ある種のコモングラウンドやコモンズを立ち上げていくこと、そのなかで醸成される信頼関係から考える重要性を考えさせられました。2025年大阪・関西万博が新たな社会実装の端緒になるのかもしれませんが、その場合もテックジャイアントが覇権を握るようなかたちではなく日本的なみんなで寄り合ってつくっていく考え方でアプローチできるといいのかなと感じます。みなさんはいかがでしょうか。

水口:
「ポスト・コンビニエント」をつくっていく必要性を感じましたね。やはり人間はまずコンビニエントな状況をつくろうとするんですが、それは終着点ではない。デジタル化してスマート化が進む一方でアナログのレコードが売れるようになるとか、反動はつねにあって、それこそが人間のもつ幅なのだと思います。だからタンジブルもインタンジブルも、体験も情報もふくめて、さまざまなものをどうアーキテクトしていくかは今後ますます重要になりそうですね。

豊田:
みなさんと話していて、「謙虚」にならなければいけないなと感じました。20世紀に科学が発展したことでもうこれ以上の発見や成功はないのではと思いがちですが、じつはそうではない。ぼくらが知っているものなんてほんの一部でしかないと謙虚になった瞬間に、まだまだ理解できない領域や探索できる道具立てが広がっていることを認識できるわけですよね。余地のない雰囲気が社会に蔓延していますが、本当はもっと余地があるのだと考えれば社会もより流動的になっていけるように感じました。

松島:
さらに可能性を開いていく世界ということですよね。

江村:
昨年の会議で大阿闍梨の塩沼さんや人類学者の松村圭一郎さんもおっしゃっていましたが、人間だけで世の中ができているわけではない。人間の体内だけを見ても腸内細菌がいるし、動植物やほかの存在もミラーワールドには含まれてくるはず。ミラーワールドというとしばしばデジタルに寄ってしまうのだけれど、きちんと身体が何を受けとめているかも意識しなければいけませんよね。身体的なことも含めてよりリアルに体験できる空間をつくっていける時代になってきているので、それをどう位置づけるかも含めて考えていかなければいけないのだと思います。

NEC未来創造会議の議論は、しばしばこれまでの会議で議論されたトピックを引きなおしながら進んでいく。それはこのプロジェクトが設定している「RELATIONSHIP」「EXPERIENCE」「VALUE&TRUST」「LEARNING/UNLEARNING」という4つのテーマが相互に強く連関したものだからでもあるだろう。これからの体験を考えることは、人と人の関係性を考えることであり、社会の基盤となる信頼を考えることでもある。4人による「体験」をめぐる議論は、情報から体験へ向かう新たなパラダイムシフトを明らかにするとともに、新たな社会のあり方も提示していた。

次回、第3回の有識者会議のテーマは「VALUE&TRUST」だ。今回の会議でも論じられた信頼=TRUSTは、あらゆるものがデジタル化され流動性も高まるこれからの社会において非常に重要な概念のひとつといえる。人々がお互いに信頼を形成できなければ、NEC未来創造会議の掲げるビジョン「意志共鳴型社会」の実現もありえないだろう。果たして、未来の「VALUE&TRUST」はいかなるものになるのだろうか。NEC未来創造会議は人々が新たな信頼に支えられ新たな体験を享受できる社会をつくるべく、これからも議論を重ねていく。