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NEC未来創造会議

キーワード解説 価値観を共有した社会システム「コモンズ」とは~人類と地球が共に持続可能な未来を築くために

産業革命以降、人類はテクノロジーを発展させるとともに経済成長を追求してきました。そして、グローバルな開発競争を進めてきた結果、今日の豊かな暮らしを手に入れました。その一方で、貧困や飢餓、自然環境の破壊により経済・社会の基盤となる地球環境の危機的悪化を招き、気候変動や食糧危機など多くの社会問題が深刻化しています。また、COVID-19のパンデミックなど社会が複雑かつ不透明さを増しつつある今、「コモンズ(Commons)」というキーワードを通じて新たな社会づくりの必要性が説かれています。

コモンズは日本でも古くから行われてきた制度

「コモン(common)」には共通、共有の意味があります。そして、コモンズとは近代以前のイギリスで、共同牧草地の管理を住民が自治的に管理してきた制度のことを呼びます。このような共通、共有をめぐる制度は,イギリスのみならず古くから世界各地で見られています。

日本でも、村や集落など一定範囲の地域住民が相互の話し合いを通じ山林や原野の乱獲や乱伐を防ぐルールを決めて管理する「入会地」や「入会林野」がありました。同じく河川や海域など、それぞれの地域に適合した自治的ルールの下で、共同利用する制度が古くから存在しました。

このように、従来は「共有の財産」を管理、保守する共同体制度を指すのがコモンズでした。

現在の社会問題に置き換え、持続可能性を考える鍵に

しかし、アメリカの生態学者であるギャレット・ハーディン氏が、1968年に「共有地(コモンズ)の悲劇」という論文を発表しました。誰もが自由に利用できる共有資源を個々人が自分勝手に使った結果、資源が過剰に使われて枯渇し、全体として不利益を受けると警鐘を鳴らしました。

コモンズの悲劇の警告は、さまざまな社会問題に置き換えられて考えられるようになりました。地球温暖化や気候変動、オゾン層の破壊など、地球的規模で顕在化している問題にも通じ、持続可能性を考える上で鍵となる考え方です。そして、コモンズの実践にあらためて関心が高まり、さまざまな研究分野の人たちが集うようになりました。

地球は皆のものでもあり、一人ひとりが空気、水、自然、土壌を勝手に使いすぎれば環境は悪化の一途をたどります。気候変動により引き起こされる大規模な自然災害、さらにCOVID-19のパンデミックと今後も予測できないリスクに直面するたびに、私たちは地球環境や社会の持続可能性を図らなければなりません。

コモンズは本来、土地の資源を地域住民で保全することを目的としていました。つまり、地域住民自身で資源の持続可能性を図る有効な手法であり、地域共同体(コミュニティ)のあり方そのものです。そして、近年では「価値観を共有した社会システム」の意味を持ち始めています。

21世紀の経済はコモンズによって駆動する

コモンズについて、『限界費用ゼロ社会:〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』の著者で文明評論家のジェレミー・リフキン氏は、2020年のNEC未来創造会議「NEC Visionary Week」で講演。21世紀の経済はコモンズであるべきだと示しました。

リフキン氏は、通信・エネルギー・モビリティという3つの技術を一本化するデジタル革命「第三次産業革命」の可能性を提示。「限界費用が減ると企業の利幅が縮小し、従来の市場取引型資本経済は崩れていきます。市場からネットワークへ、交換から循環へ、売り手・買い手から提供者・利用者のネットワークへ、所有権からアクセス権へ、生産力から再生力へ――あらゆる面で、大きな変革が生じるでしょう。限界費用がほぼゼロになる先に生まれるのは、共有型経済です」と訴えました。

また、同講演でNECフェローの江村克己は、多様な価値観に基づく地域(ある意味でのコモンズ)がネットワークでつながることで、一人ひとりが自分の意志や嗜好を活かしながら、地球全体を豊かにすることができると強調。「地域に存在するコモンを結び付けて全体最適解(豊かな社会)を創ることが大きなチャレンジです。そのためには、偏差値社会に代表される単一評価による弊害を打破し、多様な評価軸を受け入れる社会を創る必要があります」と語っています。

そして、コモンはビジネスシーンでも浸透しつつあります。従来のビジネスモデルは、企業が消費者を対象にモノやサービスを販売するBtoCや、企業から企業へ提供するBtoBが中心でした。近年、消費行動の変化、多様化が広がり、従来の商品を購入して所有する「モノ消費」から、サービスや商品を購入したことで得られる体験に価値を求める「コト消費」に変化し、新しい経済の動きが生まれてきました。モノや場所、スキルなどを必要な人に提供、共有する形態のサービス、シェアリングエコノミーがその代表的な例です。

例えば、「モノ」のシェアでは、雑貨や本など個人間で売買するフリマアプリは幅広く認知されています。「空間」のシェアとして、自宅の空き部屋を観光客などに貸し出す民泊が挙げられます。「移動」のシェアは、長距離移動の目的地まで相乗りしたり、個人が所有する自動車を複数で利用したりするカーシェアリングのサービス、通勤や観光目的で利用するシェアサイクルが身近になっています。

個人の「スキル」をシェアするサービスも存在します。自分のスキルや経験を活かして、好きな時間に働くことができるクラウドソーシングサービスです。観光案内や家事代行、子育てなど、幅広い分野で利用が見込まれています。クラウドファンディングは、資金がなくても企画次第で不特定多数の個人から資金調達ができる「お金」のシェアとなります。

成長と持続性両立の道標、新たな価値基準「New Commons」

今、エネルギーや食料、資源循環、都市といった地球システムに大きな影響を与える社会・経済システムを大転換し、人類と地球が共に持続可能な未来を築く対応力が求められています。コモンズの究極は、地球を皆でシェアすべき共有地・共有財として行動することです。

経済成長と地球の持続性を両立する社会の在り方とは。何のために社会があり、何のために企業があるのか、私たちは価値観を問い直す分岐点に立ち始めています。そして、複雑かつ不透明さを増す現代において、持続可能な未来に向けた人と社会の新たな価値基準「New Commons」を実践する動きが広がっています。人々の価値観が大きく変わりつつある中、これからは豊かな多様性を担保しながらも同じ目標を設定していくことが重要となります。コモンズを次のレベルに高めることが、成長と持続性を両立させる道標になるでしょう。

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