サイト内の現在位置

NEC未来創造会議

これからの社会、これからの技術

NECが2017年度から始めたプロジェクト「NEC未来創造会議」。2050年の未来を考えるべく始まったこのプロジェクトは、領域を問わずさまざまな有識者を招きながら毎年議論を重ねてきた。議論のもとで新たな社会を構想するビジョンやそのための共創活動も始動するなかで、本プロジェクトを牽引してきたNECフェローの江村克己はいまこそ「技術」のあり方を考えるべきだと語る。長年にわたり最先端で技術の進化に寄り添ってきた江村が綴る、これからの社会のためのこれからの技術とは。

#10 「宇宙」を考えることで視野は広がっていく

宇宙と技術の関係性

「これからの社会、これからの技術」と題したシリーズは、今回で一区切りとします。そこで前回の議論を受け、今後の技術の展開について、時間軸の長さと空間の広さを拡げて議論したいと思います。近年、宇宙に関するニュースを目にすることが多くなりました。たとえば最近では、米国NASAによる火星探査のニュースが報じられていますし、中国の火星探査機も火星の軌道にまで到達しています。NECに関連するところでは、2020年末の「はやぶさ2」のカプセルの帰還があります。小惑星「リュウグウ」から持ち帰ったサンプルからどんなことがわかるかとても楽しみです。はやぶさ2はカプセルを帰還させた後、未知の小惑星を目指す拡張ミッションに再出発したというのも驚くべきことです。

NECは、保有する最先端技術を活用しさまざまな形で宇宙に貢献しています。たとえばNECは先日、ロッキード・マーチン社と衛星・宇宙航空分野でのAI技術活用について合意したとアナウンスしました。まずはNASAの月探査計画「アルテミス」向けの宇宙船「オリオン」の開発に、NECのAI技術であるインバリアント分析技術を活用するところから取り組みがはじまります。NEC未来創造プロジェクトでも昨年度、宇宙ビジネスへの参入を検討している人や宇宙の知見を深めたい人が集まる未来予測コミュニティ「宇宙分科会」とコラボレーションを行いました。そのときのテーマは「宇宙視点で持続可能な地球環境・社会を考える」でした。パネル討論を通じて、宇宙には本当にいろいろな可能性があることがわかりました。

宇宙利用ではすでにGPSなどによる位置情報の提供、不感地域への通信の提供などが行われています。天気予報や地球環境観測、農業・漁業支援などさまざまな応用展開も進んでいます。NECには、衛星に搭載した合成開口レーダを使って、水平・垂直の2次元の微小位置変位を観測する技術があります。インフラの老朽化が進むなかでは、広域を一気に観測できるこの技術が今後のインフラ診断とメンテナンスに大きく貢献すると期待されます。この事例が典型ですが、衛星には広範囲をカバーできるという特長があり、農業や漁業でもこれまでとは異なる形での情報提供が可能になります。現場でのセンサー情報と衛星からの広域情報を組み合わせることで「鳥の目」と「虫の目」を合わせた新しいソリューションをつくることも可能になります。さらに今後は小型衛星ビジネスや宇宙旅行などが進展すると期待されます。宇宙エレベータなど夢のある検討も進められています。

一方で、安全保障という観点でも、宇宙の重要性はこれから高まると考えられています。宇宙には国境もなく、そこで得られたデータの扱いを含め、どのように活用を進めるか具体的に決まっていないことが多々あります。今後不足する資源を宇宙に求めるということも想定されます。わたしたちにとって残された未開の領域であるだけに、その活用の仕方について、倫理的な問題を含め、世界的なコンセンサスを得ながら進めることがこれから重要になると考えられます。そのなかで、日本がしっかりとした役割を果たしていくことが期待されます。

人類の進化を知るための宇宙開発

宇宙は、科学に関する知見を得るという観点でも、とても重要で魅力的です。未来創造会議の立ち上げ期に特に大きな貢献をいただいた物理学者で未来学者でもあるミチオ・カクさんの近著は、『人類、宇宙に住む-実現への3つのステップ-』です。この本では壮大なスケールでこれから考えるべきことが語られています。

今年度の未来創造会議の主な論点は、地球のサステナビリティを如何に保つかというところにありました。わたしたちが子孫に豊かな地球を残すことは大変重要ですが、長い目でみると、太陽系の変化により、人類がいつまでも地球に住みつづけることは不可能になります。ミチオ・カクさんの表現を借りれば、「人類がいつかなんらかの絶滅レベルの出来事に遭遇するのは物理法則と同じぐらい避けがたい」ことになります。それでも人類が生き残り、さらなる繁栄をすることを想定して、地球以外に新たな居住地を探るための検討が進められています。最終的には地球外に人間が住める環境をつくることが目指されており、それは「テラフォーミング」と呼ばれています。その第一歩がアルテミス計画や火星探査です。

テラフォーミングを行ってもいまの地球と同じ環境をつくることは難しく、遠い宇宙に人間が移住するためには、長寿化や仮死状態化、クローン化などを検討することが必要とカクさんは本のなかで議論しています。はやぶさ2の狙いのひとつは生命の起源を探ることです。火星探査では、火星に生物が存在したかを探りながらも将来的には人間が移住する可能性があるかを探っています。こういった検討が進められるなかで、人類の進化について新たな知見が得られていくことも期待されます。ソビエトが世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げたのが1957年、アポロ11号の月面着陸が1969年です。コンピュータをはじめとする周辺技術を含めた、その後の技術の大幅な進展を考えると、今世紀中には想像を超えることが実現されるのではないかと期待が膨らみます。

枠を外して視野を広げるためには

ミチオ・カクさんはこれまでにたくさんの本を出されています。代表的なものを古い順に並べると、『サイエンス・インポッシブル』(2008)、『2100年の科学ライフ』(2012)、『フューチャー・オブ・マインド』(2014)、『人類、宇宙に住む』(2018)となります。その内容の変化を見ると、時間軸がより遠くから、近い将来をカバーするようになってきています。SF的で物理的なものから人間そのものや心に興味が移ってきてもいます。そして今回取り上げた『人類、宇宙に住む』では、宇宙空間へ見る空間が大きく広がるとともに、それによる必然ともいえますが、そのカバーする時間軸が相当拡がりました。

前回触れたように、技術がカバーする範囲は、広さと深さと時間で相当なひろがりがあります。事業のことを意識するとわたしたちの視野は近場にとどまりがちです。ときには、みずから課してしまっている枠を外して、発想を拡げることが、技術の新しい活かし方を見出し、イノベーションを興す近道なのかもしれないと、宇宙のことを学びながら感じました。多様な人と接し、視野を拡げる努力の重要性も増しているのだと思います。