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NEC未来創造会議

これからの社会、これからの技術

NECが2017年度から始めたプロジェクト「NEC未来創造会議」。2050年の未来を考えるべく始まったこのプロジェクトは、領域を問わずさまざまな有識者を招きながら毎年議論を重ねてきた。議論のもとで新たな社会を構想するビジョンやそのための共創活動も始動するなかで、本プロジェクトを牽引してきたNECフェローの江村克己はいまこそ「技術」のあり方を考えるべきだと語る。長年にわたり最先端で技術の進化に寄り添ってきた江村が綴る、これからの社会のためのこれからの技術とは。

#7 新たな社会を支える新たなエネルギーシステム

カーボン・ニュートラルは可能か

これまでも紹介してきたように、今年度のNEC未来創造会議での議論で強く意識していることが、地球の持続可能性です。コロナ禍は言わずもがなですが、頻発する異常気象などから多くの人が持続可能性を意識し始めています。折しも菅首相が2020年10月26日に、「2050年までにカーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と表明しました。この実現に向けては、多面的な対応を検討することが必要になります。CO2をはじめとする温室効果ガスの削減の議論になると日本では主にエネルギーミックスのあり方について議論されがちですが、デジタルの技術でCO2削減に貢献できるところもたくさんあります。コロナ禍で働き方、学び方をはじめ多くの生活様式に変化が起こっており、そういった変化をとらえながらデジタル技術がこれから果たすべき役割について今回は考えたいと思います。

「エネルギー白書2020」によると、日本は、2017年で一次エネルギー源における化石エネルギーの比率が91%もあり、再生可能エネルギーの比率を高めていくことが大きな課題になっています。NEC未来創造会議でジェレミー・リフキン氏は、自然エネルギーをベースとした太陽光発電と風力発電などは限界費用がゼロに近づくので、環境問題の解決のみならず、新しい社会を創る上でも大きなポテンシャルをもつと述べていました。一方で再生可能エネルギーの比率を上げるには時間がかかりますし、限界もあります。カーボン・ニュートラルに向けて、エネルギーの効率的利用という観点からわたしたちがICTやデジタル技術で貢献できることは何か具体的に考えることが今回の主な目的になります。

同白書によると、一次エネルギーとして供給された19728PJのエネルギーのうち、最終エネルギー消費に使われたのは13124PJであり、そこまでに1/3が失われていることがわかります。最終消費でもすべてのエネルギーが有効に使われているわけではなく、かなりの損失が発生しています。2019年の米国のエネルギー消費について分析したローレンスリバモア国立研究所のデータによれば、最終的に有効利用されたエネルギーは全体の1/3にとどまっているとのことです。エネルギーの製造、転換、輸送における損失については、技術開発によってそれぞれ効率をあげることが必要です。一方で消費までを含むエネルギー利用全体のプロセスを効率化することも重要で、ICTやデジタル技術が貢献できるところも多々あります。

新たなエネルギーネットワーク

そこでひとつ目となる論点は、再生可能エネルギーの導入にあわせてエネルギーシステム自体を変えていくことです。太陽光発電の導入が進むと、エネルギーネットワークが集中型から分散型に変化します。再生可能エネルギーによる発電が天候に大きく依存することから、蓄電池などを活用した調整力を確保することも必須になります。ICT技術を活用すると、小さい単位での電力のやり取りをリアルタイムで行えるようになり、価格のダイナミックな設定も可能になります。技術の進展により広域なシステムでこれらのことを実現できるようになりました。従来の集中型のエネルギーネットワークは、ネットワークの所有者が全体をコントロールする形でしたが、分散型になるとオープン性が高まり、これまで議論してきたコモン的運営も可能になります。ここには社会を大きく変えるポテンシャルがあります。

エネルギー消費を分野に分けてみると、製造などの産業分野に加え、家庭、商業、運輸などの分野に分けられます。家庭や商業の分野で再生可能エネルギーの導入により展開が期待されるのがZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)であり、いくつもの事例が出始めています。これからは、これらをつないで新しいエネルギーネットワークをつくることになります。

リフキン氏は、未来創造会議の講演でこれからは「情報」「エネルギー」「モビリティ/物流」のインターネットが重要になると述べるとともに、ビルディングがInternet of Things (IoT)のエッジとして機能するようになると言っています。ビルディングがエネルギー源になるとともに電気自動車へのエネルギー供給源になることから、3つのインターネットの結節点にもなります。システム全体を効率化し、レジリエントにするという観点でもZEHやZEBの役割が重要になり、そのノードとしての設計も大切になってきます。次の社会を見据えた全体設計が必要になり、それがスマートシティの実現にもつながります。

NECの事業の取り組みのひとつがNEC Value Chain Innovationです。例えば食料の需給を考えた場合に、生産、物流、消費の各セグメントではそれぞれ効率化が進められています。一方で日本では食料廃棄が30%にのぼると言われています。全体をつないで最適化を行い、食料廃棄を減らすことができれば、カーボン・ニュートラルの実現にも寄与することができます。物流においても、ICTを活用しながら企業や業界横断で取り組むことで、積載率の向上や配送の効率化が出来ます。これらの議論を進める上でポイントとなるのは、システムを大きくとらえ、全体最適を行うことです。データの時代になり、適切に状況の見える化をし、AI等を活用してデータ処理を行い、適切な対処を行うことで全体最適を行うことが可能になりました。技術の進展を活かし、本当に全体最適な仕組みを実現出来るかどうかは、社会のデザインを行う私たち人間によるところが大きくなっています。

意識と行動から変えていく

コロナ禍により社会システムに大きな変化が起きています。リモートワーク、オンライン授業、遠隔医療など新しい取り組みがあっという間に浸透しました。コロナ後にどんな社会を創っていくのかに今から思いを馳せて、ビジョンを共有していくことが重要になります。そのときもつべきひとつの視点が、デジタルを活用して社会システムの効率化を進めることで、どうエネルギー消費を減らしていくかということになります。リフキン氏は「所有からシェアへ」と言っています。社会を変えていくには、最新技術の導入とあわせて、我々の意識や行動パターンを変革していくことが必須になります。

2020年度NEC未来創造会議の第2回有識者会議で、斎藤幸平さんが、加速主義への警鐘を鳴らされました。科学技術の進展によるイノベーションが今ある課題を解決するという期待に対し、地球温暖化が進む時間軸と科学技術の進化を考えた時に、必ずしも解足り得ない可能性が大きいという主張です。そこで必要となるのが、私たちの意識改革です。斎藤さんの発言を引くと「家で家族とゆっくり過ごす時間だったり、楽しい体験をシェアできることだったり、GDPには反映されない生活の質を高めてもいいはずです。発展と持続可能性は両立するはずですから」ということになります。コロナ後の社会を描くということは、私たちにとって豊かに生きるということはどういうことかを見つめ直す機会でもあるということだと思います。

コロナによってエッセンシャルワークの重要性が再認識されました。利他の意識を含め、豊かに生きるということを考え直すことが必須になっています。NEC未来創造会議では哲学ある技術の活用という議論をしていますが、技術の適正利用のための倫理を含め、人のこころ、内面、意識について考えることが重要になっています。これが次回の議論ポイントになります。