サイト内の現在位置

NEC未来創造会議

これからの社会、これからの技術

NECが2017年度から始めたプロジェクト「NEC未来創造会議」。2050年の未来を考えるべく始まったこのプロジェクトは、領域を問わずさまざまな有識者を招きながら毎年議論を重ねてきた。議論のもとで新たな社会を構想するビジョンやそのための共創活動も始動するなかで、本プロジェクトを牽引してきたNECフェローの江村克己はいまこそ「技術」のあり方を考えるべきだと語る。長年にわたり最先端で技術の進化に寄り添ってきた江村が綴る、これからの社会のためのこれからの技術とは。

#6 新たな社会は「コモンズ」からつくられる

コモンズという新たな価値基準

前回に引き続き、2020年11月に開かれたNEC未来創造会議で展開された議論からの気づきをベースに、今後の技術と社会のあり方について考察したいと思います。

ジェレミー・リフキン氏は、第1次産業革命が都市化をもたらし、第2次産業革命が分散化をもたらしたとコメントしていました。それでは、人が暮らすという観点から見ると第3次産業革命はどんな変化をもたらすのでしょうか? この議論を進める上で、もうひとつ意識しておくべき点が、今回の未来創造会議のセッションタイトル中にある、新たな価値基準「New Commons」です。Commons(コモンズ)についての定義を議論しだすとたくさんの意見が出るので、ここでは、「価値観を共有した社会システム」くらいの緩い定義で考えたいと思います。社会が目指すところ、言い換えればビジョンを共有するところが議論のスタートとなりました。

目指すべきビジョンの例として今回の未来創造会議であげられたもののひとつが、田中角栄が唱えた「日本列島改造論」(都市と地方を結ぶ鉄道網、高速道路網を整え、地方に工業を再配置して、地方で豊かに暮らせる国づくりを唱えたもの)です。もうひとつはリフキン氏が、今の課題として自然の喪失(1910年頃には自然環境の88%が未開だったのに対し、現在は22%になっていると指摘)をあげていたことに対して提示された「○○%まで自然を取り戻す」というターゲット設定です。

人新世の時代(アントロポセンAnthropocene:人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与えるようになった時代)になったと言われるなかで、究極は地球を皆でシェアすべきコモンズ(共有地・公共財)として議論することになります。国連が2015年に設定したSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、皆が地球規模の課題に取り組んでいこうという考えをベースにしているとも言えますが、多くの人が目標を共有し、地球をシェアしていくには、さらにチャレンジが必要と考えます。

今の時代は価値観が多様化していますので、多くの人が共感するビジョンを設定することは難しくなっています。一方で目標を共有する人がある程度の規模のコミュニティをつくることは可能です。今回、未来創造会議の有識者としてお招きした建築家、藤村龍至さんは、海で囲われている島にそのポテンシャルを感じ、瀬戸内海で活動していると話をされていました。今年度の第2回分科会に参加いただいた山崎満広さんは、長く米国ポートランドで都市開発に携わってこられました。ポートランドは最近「We Build Green Cities」というビジョンを掲げてグリーンシティの取り組みを進めています。ポートランドにはもともと新しいことにチャレンジする風土・文化があり、市の取り組みや文化に共感する人が集まっています。他の大都市にない新しい取り組みがいろいろと進められ、ゲームチェンジャーの都市としての気風ができあがっているとのことです。ビジョンが人を集め、人を変え、ある意味でのコモンズをつくっていくということかと思います。価値観が多様化しているので、これからはそれぞれの地域の特長を活かして異なるタイプのエリアが出来てくることが望まれます。地方創生のヒントもそこにあるように思います。

多様性を活かして豊かな社会をつくる

さて最初に提示した論点「第3次産業革命がどんな新しい社会をもたらすか」に議論を戻すと、そのひとつの可能性は、多様な価値観にもとづく地域(ある意味でのコモンズ)がネットワークでつながって、一人ひとりは自分の意志や嗜好を活かしながら、社会全体では豊かな社会を創るということかと思います。藤村さんは、「ハイパービレッジ」という表現を使っていましたが、良い表現だと思います。リフキン氏もGlocalizationということを言っていましたが、背後には同様の思想があるのだと思います。

上記のような社会を創っていく上で必要なことを、それを可能にする技術を含め、考えてみたいと思います。まずコモンズをつくる上では、興味をもっている人たちにきちんと情報が伝わり、議論が行われアクションができる状況をつくることが必要になります。今年、未来創造会議の有識者としてお招きした斎藤幸平さんが、ライフラインを公共財に、すなわちコモンズにしていくことが重要だという話とともに、最近、パリの水道が再公営化されたことを教えてくれました。パリではかつて民営化によって水道料金が値上がりした上に水質そのものも下がりましたが、その後市民運動を経て数年前に再公営化されたとのことです。公有財産であるからこそ自分たちの意見を反映する余地が残っていることに人々が気づき、具体的なアクションが行われた例だそうです。日本で同様の動きが創り出せるかという議論もあるかと思います。公器としての会社や産業からコモン的な動きを始めるというのも、日本ではひとつのアプローチになるかもしれません。

コモンズを実現するための方策のひとつが「シェア(リング)」です。未来創造会議での講演でリフキン氏は、“Sharing economy. It's a great commons of the 21st century”と述べています。シェアが可能になった背景には、プラットフォーム技術の進展があります。様々な領域にシェアを拡げていくためには、プラットフォームにより多くの人の意見が反映されるようにしながら、さらにその能力を高めるための研究開発を進めていくことが必要になります。

自分たちの手で社会を守るためには

ローカルに多様なコモンが存在するようになった時に、それらを結び付けて全体で最適な解(豊かな社会)を創っていくところに大きなチャレンジがあります。多様なコモンを受け入れるためには、偏差値社会に代表される単一評価による弊害を打破し、多様な評価軸を受け入れる社会を創る必要があります。そのためには、私たちがやり取りする情報をより多様にしていくことが必要ではないかと考えています。そのための取り組みが「エクスペリエンスネット」の検討です。NECはその実現に向けた研究開発を進めるとともに、私たちの未来創造プロジェクトでエクスペリエンスネットのアイデア検討を行っています(注)。

(注)スペキュラティブ・デザインによる4つの未来シナリオとエクスペリエンスネット

それぞれのコモンで価値観を共有するとともに、コモン同士で異なる価値観の間で価値の読み替えを行うことも必要になります。未来創造プロジェクトではまず、株式会社eumoと連携して、共感コミュニティ通貨eumo(ё)を活用した実証実験を始めています。将来の新しい社会の実現につながっていくことを目指して、わたしたちはこれからもこうした取り組みを続けていきます。

コロナ禍で、エッセンシャルワークの重要性を多くの人が再認識しました。コモンズのベースに私たちの生活に必要なものを、自分たちの手で守っていくという思想があるということを考えると、エッセンシャルな仕事を社会でどう守っていくかということも考えるべき重要なポイントになります。こういったことを含め、多様なコモンズが共存し、社会全体をより良い形にしていくことがこれからの大きなチャレンジです。デジタルの時代になり、データの力を借りて全体最適を行うことが可能になっています。これからは全体俯瞰する能力と大きな構想が必要になります。超えるべきハードルはとても高いですが、人間力と科学技術の力の共創で新しい社会を実現できるよう、わたしたちはこれからも検討を続けていきます。