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NEC未来創造会議

これからの社会、これからの技術

NECが2017年度から始めたプロジェクト「NEC未来創造会議」。2050年の未来を考えるべく始まったこのプロジェクトは、領域を問わずさまざまな有識者を招きながら毎年議論を重ねてきた。議論のもとで新たな社会を構想するビジョンやそのための共創活動も始動するなかで、本プロジェクトを牽引してきたNECフェローの江村克己はいまこそ「技術」のあり方を考えるべきだと語る。長年にわたり最先端で技術の進化に寄り添ってきた江村が綴る、これからの社会のためのこれからの技術とは。

#5 第3次産業革命というパラダイムシフト

成長と持続性の両立を求めて

2020年11月27日、装いを新たにオンラインで行われた大規模イベント「NEC Visionary Week」の中で、本年度のNEC未来創造会議を開催しました。セッションのタイトルは「持続可能な未来に向けた人と社会の新たな価値基準“New Commons”」。『限界費用ゼロ社会』の著者としても有名な文明評論家ジェレミー・リフキン氏にビデオ基調講演をいただいた上で、有識者のみなさまと議論を行ないました。議論のパートは『WIRED』日本版編集長の松島倫明さんによるモデレートのもと、経済学者で大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平さん、ジャズピアニストで数学研究者、日本女性唯一の数学オリンピック金メダリストの中島さち子さん、建築家で東京藝術大学美術学部建築科准教授の藤村龍至さんに参加いただきました。コロナ禍や異常気象などにより地球の持続可能性について真正面から取り組むことが必須になっていると皆が実感し始めています。そんな中で今回のセッションタイトルで象徴的に示したかった論点は、“成長と持続性を両立させ、個々人のWell-beingをどう実現させるか”というところにありました。この議論を多面的に進められるメンバーに参加いただくことができ、大変有意義な議論ができたと思っています。

リフキン氏の最新の著書は『グローバル・グリーン・ニューディール: 2028年までに化石燃料文明は崩壊、大胆な経済プランが地球上の生命を救う』です。この本で主張されていることを含め、ビデオを通じていろいろな示唆をいただきました。斎藤幸平さんは、ベストセラーになっている近著『人新世の「資本論」』で同様の課題提起とその対処法についての提言をされています。対応策について意見の相違はありますが、大きな方向性は同じだという議論になりました。藤村さんは都市あるいは地域デザインに取り組んでいる視点から、エリアを区切った上で、そこで目指すべきビジョンを明確にして取り組むことの重要性など、いろいろなサジェスチョンをいただきました。多様な顔をもつ中島さんからは、個々人が輝くための視点から多くの示唆をいただいています。例年感じることですが、今年も多様なメンバーで多面的な切り口から将来社会を描く重要性を改めて痛感しました。NEC未来創造会議での議論全体については、そのレポートが本サイトで発信されますので、そちらを参照ください。

第3次産業革命とはなにか

このコラムは、「これからの社会、これからの技術」というタイトルが示すとおり、これからの社会のために、これからの技術はどうあるべきか、を切り口に話を展開してきました。今回は、あくまでも個人としてですが、今年のNEC未来創造会議から得たこれからの技術の役割についての気づきを発信します。

社会の進展をどう読むかについてはいろいろな考え方があり、日本では来るべき社会としてSociety5.0を謳っています。先般、OECDの会議にリモート参加した際、いくつかの国の代表がSociety5.0を引用していたのが印象的でした。次の社会は人のことを中心に考えて描くべきというSociety5.0の姿勢に共感が集まっているのだと思います。

これに対しリフキン氏は、これから第3次産業革命(The Third Industrial Revolution)が起き、以降は産業革命が起きないと明言しています。これもひとつの見識だと思います。リフキン氏の定義によれば、第1次は19世紀にイギリスで起きた産業革命、第2次は20世紀にアメリカで起きたものとされています。いずれも「コミュニケーション」「エネルギー」「モビリティ・物流」それぞれの観点で変化が起きていると言っていることは注目に値します。その上でリフキン氏は、第3次産業革命のポイントは「デジタル」にあると言っています。これはデータ社会を創ると言いかえてもいいと思います。情報のインターネット、エネルギーのインターネット、モビリティ・物流のインターネットを統合して効率的な社会を創っていくことが、気候変動等の課題を克服し、サステナブルな社会の実現のキーとなるのだと彼は主張しています。

「情報産業論」との共鳴

リフキン氏の話を聞いて、梅棹忠夫先生のことを思い出しました。梅棹先生は1963年に「情報産業論」(注)を発表されています。その中で、世の中の進展を農業の時代、工業の時代、精神産業の時代と捉え、その進展を人体の器官の進化になぞらえて論じていました。農業の時代の食料供給の改善は、人間の内胚葉諸器官すなわち消化器官系が整備されることにあたるとしています。工業の時代は、生活物資とエネルギーを進展させており、これは中胚葉諸器官すなわち筋肉がつくられることに相当すると言われています。その上で精神産業の時代には情報と感覚機能が重要になり、外胚葉諸器官すなわち脳神経系が整備されることにあたると述べています。

(注)梅棹先生の「情報産業論」の考え方については、梅棹忠夫『情報の文明学』(中公文庫)で詳しく知ることが出来ます。

これらはリフキン氏が言っている3つのインターネットの考えと共通している面があると思います。人体は全体として大変効率的にいろいろな機能を実現しています。人体に学ぶということを含め、全体を俯瞰しながら効率化を進めて如何に環境にやさしくサステナブルな社会を創っていけるかがこれからの大きなチャレンジになるでしょう。梅棹先生が半世紀以上前にこういった思想を展開されたことには大変驚かされます。わたしたちも大きな思想やビジョンをもって取り組むことが必要であると示唆されているようにも感じます。データとデジタルの力を使い、エネルギー、モビリティ・物流をトータルで最適化して如何に次の社会を創っていくのかが問われているのだと思います。

梅棹先生は、精神産業の時代の経済学についても議論しています。商品の価値(価格)のみが意識されていた時代に、情報の価値をどう測り価格設定するかについて議論し、お布施の原理をひとつの見方として取り上げていることは注目すべきでしょう。時代は変わりましたが、第3次産業革命による社会の変化を考えるにあたっても、経済のシステムがどう変わるかをあわせて考えることが重要になります。リフキン氏は、限界費用ゼロ社会がくることによって、経済の仕組みが変わると言っています。それは従来の資本主義による市場での取引をベースにしたものから、需要と供給を直接つなぐ形に変わるという考えです。さらにはシェアリングエコノミーへのシフトも起こるとされており、この大きな変化の背後には次のようなシフトがあるともリフキン氏は言っています。講演での表現をそのまま引用しましょう。

“From markets to networks. From exchanges to flows. From sellers and buyers to providers and user networks. From ownership to access. From GDP to quality of life indicators. From productivity to re-generativity. From externalities to circularity.”

とても示唆に富んでいると思いますし、これらを可能にするための技術は多岐にわたりますので、重要性を理解してタイムリーな開発を行なっていくことが不可欠になっていくとわたしも考えています。

今年のNEC未来創造会議でのもうひとつの大きな論点が、これからの社会を支えていくコモンズと社会の構造というところにありました。この点に関する技術面からの視点については、次回発信します。