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NEC未来創造会議

これからの社会、これからの技術

NECが2017年度から始めたプロジェクト「NEC未来創造会議」。2050年の未来を考えるべく始まったこのプロジェクトは、領域を問わずさまざまな有識者を招きながら毎年議論を重ねてきた。議論のもとで新たな社会を構想するビジョンやそのための共創活動も始動するなかで、本プロジェクトを牽引してきたNECフェローの江村克己はいまこそ「技術」のあり方を考えるべきだと語る。長年にわたり最先端で技術の進化に寄り添ってきた江村が綴る、これからの社会のためのこれからの技術とは。

#3 未来を予測するために必要なこと

過去から未来を見ること

NEC未来創造会議は、2050年という30年後の未来を構想しようとしています。30年後の技術を考えるうえでは、さまざまな視点の意見を取り入れるだけでなく、これまでに人々がどのように「未来」を想像してきたのか知ることも重要です。

これまで数多くの人や企業、メディアが未来について予測してきましたが、なかでも興味深いのは1901年に報知新聞が誌面に掲載した「二十世紀の豫言」という記事です。20世紀のはじまりとともに発表されたこの記事は、電気通信や運輸、軍事、医療、防災など23の項目について、20世紀中に実現するであろう科学や技術について予測しています。

この記事は30年どころか100年先の未来を語っていますが、驚くべきことに、的中しているものが少なくありません。たとえば「無線電信及電話」は携帯電話・国際電話として実現し、「七日間世界一周」も飛行機など交通手段の発達によって現実のものとなりました。「買物便法」のように現代のオンラインショッピングを予見したようなものもあります。一方で、「人と獣の会話自在」「蚊及蚤の滅亡」など自然や生態系について予測したものの多くは、2020年現在においてほとんど実現していません。それはつまり、NECが扱う科学技術の領域は比較的見通しが立ちやすいものだといえるのかもしれません。技術革新の速さを考えれば、1900年からの100年で起きたことは2020年からの30年程度で達成されてしまうでしょう。だからこそ、現状にとらわれることなく、30年というスパンで未来を考えることで未来を切り拓く新しい技術を考えられると思っています。

未来を見る視点

理論物理学者のミチオ・カクさんからも、将来を読むための知見を得ることが出来ました。カクさんはNEC未来創造会議に参加した際に、自分はSF作家ではなく物理学者なので実現する未来についての予測は当たると仰っていました。カクさんは、30名にも及ぶノーベル賞受賞者にインタビューし、技術進化への考え方を学びます。それとともに大学を回って新しい技術の芽を見出します。そこから物理学の知見でいつ頃実用になるかを考えるのです。かつてほど見通しが立たない時代ではありますが、技術が科学的なものである以上、その芽が実証されているものをベースに論理的に考えることで高い確度の予測ができるという考えには説得力があります。一方で、SF的な想像力も未来を拓く上で重要になります。昨年のNEC未来創造会議に参加したアンソニー・ダンさんが提唱している「スペキュラティブ・デザイン」はまさにその想像力を現実へと向けるためのアプローチです。将来の社会を複数推測するのが「スペキュラティブ・デザイン」です。そのうちどの社会の実現を目指すかは私たち人間の意志によって決まります。将来社会をつくるのは私たちなのです。

どのような観点から考えるにせよ、100年前とは異なり現在から未来を考えるうえでは技術だけでなく人間についても考えなければなりません。ミチオ・カクさんは多数の著書を通じて未来について語っています。そこで語られていることが、物理的な技術の進展から生命に関することに、技術そのものから人間のあり方へと移っていることは大変興味深いことです。NEC未来創造会議も、デジタルとは異なることにも意識をおいたうえで、技術の未来について議論することが重要なのだと思っています。

あらゆる制度が変わっていく

一回目の発信でも触れたように、技術と社会の繋がり方が変わってきているのを感じています。経団連は研究開発の進め方として「戦略と創発」を提言しています。実用化が見えてきた科学技術を戦略的に強化していくのと同時に、大学の研究者たちが自由に研究を進めることで次の芽を創発していくことの重要性を指摘したものです。技術をその芽から実用化につなげるまでには長い時間がかかります。このことを意識して産業界とアカデミアが的確な役割分担と連携を進めて行くことが必要になっています。

NECも取り組みの変革を進めています。単なるプロダクトではなくて社会ソリューションをつくっていくうえでは、もはや一つひとつの技術だけで答えが出ることはなく、いくつもの技術を組み合わせて課題解決につなげること、さらにはプライバシーの問題などを意識して制度や仕組みをあわせて変革していくことが重要になっています。このことを意識してNECでは、社会変革に技術を活かす視点からの取り組みに力を入れています。

今年25年ぶりに科学技術基本法が科学技術・イノベーション基本法へと改定されました。基本法にイノベーションが加えられ、社会実装が強く意識されるようになりました。旧来、「人文科学のみに係るもの」を除くとされていましたが、それも取り除かれました。イノベーションとは社会へ浸透してはじめて完結するものですから、いい技術ができただけでは足りません。社会への受容も含めて考えなければイノベーションは起こせません。取り組みを根本から見直すことが必要です。イノベーションを構想する段階では、人文科学が大きな役割を果たします。的確なエコシステムをつくって取り組むことも不可欠になっています。なにより全体俯瞰をして課題設定や価値創造のデザインをする人材が、イノベーションを進める上では重要になります。企業の研究開発においても専門分化がかなり進み、全体を俯瞰的に見られる人が減っているのも事実です。人文科学や全体俯瞰の重要性を考えると、企業も人材のポートフォリオ設計を考えながら、これからの人材育成に取り組んでいくことが重要になっていると考えます。

これから必要となる人材を確保していくためには、教育の段階から対応することが必要なのかもしれません。いまの日本の教育制度は指導要領がきっちり整備され、皆で同じ知識を習得することに最適化されています。しかし、技術と社会の変化に対応していくためには体験学習を通じて考える力をつけることが重要になっていますし、近年STEAM教育のような新たな教育のかたちも提唱されています。かつてNEC未来創造会議に参加されたスプツニ子!さんが「無駄のバリューアップ」という言葉を提唱されていたように、答えを出すことではなく“無駄”な失敗を通じて創造性を高めていくことが今後は重要になっていくのだと思います。コロナ禍が加速している面がありますが、オンラインでの学びを個人の興味や進捗に合わせて進めることが技術的には可能になっています。これまでの制度や考え方にとらわれず、創造性を高めていくためにはどんなことをすべきなのかを第一に考えていくことが重要になっていると痛感しています。