Forum Report

第一部 基調プレゼンテーション
「Webの次の世界」
ケヴィン・ケリー 氏

去る11月9日に「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO 2018」の特別公演として開催された、NEC未来創造会議 2018の第3回会議の模様をお届けします。まず、ディスカッションに先駆けて行われた、『WIRED』誌創刊編集長であるケヴィン・ケリー氏による基調プレゼンテーション「Webの次の世界」のレポートから。未来を占う、いくつかの重要なキーワードが飛び出しました。

ケヴィン・ケリー氏の写真

地球規模の巨大なマシン
それが新しいプラットフォームになるだろう
One Very Large Global Machine

今日、テクノロジーは非常に速いスピードで進化しています。20年前にWeb、そしてソーシャルメディアが登場したとき、それが私たちの暮らしにどれだけパワフルな影響をもたらすことになるか、皆さん想像できましたか? そして、そのWebやソーシャルメディアのあとには、どんなテクノロジーがどのように私たちに影響を与えていくのか、今日はそういったお話をしたいと思います。

最も重要なのは、世界中のすべてのチップをつなげることによって、私たちはひとつの大きなバーチャル・コンピュータを作っているということです。地球規模の機械、国境のない極めて大きな「グローバル・マシン」。それが、人々の生活を支えます。すべての小さなインテリジェンス・チップスを包括するこの巨大なコンピュータには、70億人がつながります。もちろん、その中には私たちが作るすべてのAIも接続されるでしょう。この巨大なマシンこそが、新しいプラットフォームなのです。
新しいプラットフォームとして、すべてのハードウェアがつながり、新しい富をもたらし、そして新しいプラットフォームとして、世界の問題を解決することになるでしょう。

この新しいプラットフォームによって実現するのが「Mixed Reality(複合現実)」です。魔法のメガネをかけると、まずリアルの世界が見え、そこにバーチャルな世界も重なって見えてきます。そのバーチャルな部分は、例えばクジラだったり、あるいは宇宙空間だったりするかもしれません。それから、開発中のプロダクトやバーチャルスクリーンなど、魔法のメガネをかければ、本物の世界とバーチャルな世界が複合現実として見えてくるわけです。まさに、さまざまなアートを見せてくれる世界です。

スピーチの冒頭で、私たちは大きなバーチャル・コンピュータを作っていると言いましたが、今私たちが行っているのは、世界全体をマッピングすることです。実際のスケールでリアルな世界をマッピングする──例えば、この建物をスキャンします。それを魔法のメガネを通して見てみると、マッピングしたリアル・ワールドの上にバーチャルの世界が同時に投影されます。実際の建物の中に、同じ尺度のレプリカが見えているということですね。

また、「デジタルツイン(Digital Twin)」という考え方もあります。例えば、GE(General Electric社)という非常に大きなメーカーがあります。GEは、船舶や発電機、工業製品などを扱う複合企業ですが、こうした製造業の現場では、実際のプロダクトと同じスケール、同じ尺度、同じ複雑さ、そして同じパーツのデジタルバージョンを作ってしまいます。そのデジタルバージョンを使って、トラブルシューティングやトレーニングといったさまざまなシミュレーションができるわけです。リアルをデジタル化したデジタルツインを利用することで、新たなビッグデータを作り出すことも可能になるのです。

リアルとバーチャルが交差する
鏡の世界=ミラー・ワールド
The Mirror World

そこから向かう先にあるのは、リアルな世界の上に同じ尺度で作ったバーチャルな世界を重ね合わせていく「バーチャル・マップ(Virtual Map)」です。例えば、マッピングしたリアルな世界の上をバーチャルに歩くこともできる。Google Earthの上を歩いているところを想像するとわかりやすいかもしれません。それはバーチャルな世界ですが、リアルの世界と交差させることもできます。

リアルな世界と、まるで本物のようなバーチャルの世界。この鏡のような「ミラー・ワールド(The Mirror World)」は、ビジュアル的にリアルなのです。ミラー・ワールドにバーチャルの物体、例えばイスを置いたとします。もちろん3Dですから、イスの後ろ側も見ることができます。魔法のメガネをかけて見れば、本当の世界のように見えるわけです。

そして、「シェア(Share)」。このバーチャルな世界は共有されています。誰かひとりだけが見ている世界ではないということです。例えば、私がバーチャルなボトルを見ているとします。そのボトルは、ほかの誰かにも見ることができます。動かせばその人にも見える、持続的な世界です。
また、「このイスは私のお気に入り」といったような注釈を付けておけば、そこに来た私の友人は、その注釈を見ることができるわけです。そのためには、必ずしも魔法のメガネである必要もありません。手元のスマートフォンやタブレットでもアクセス可能な世界なのです。デバイスということで言えば、この世界はロボットが見ている世界でもあります。自律走行車などもそうですね。ミラー・ワールドで運転する場合、リアルの世界と同じバーチャルの世界が見えるわけです。
ミラー・ワールドでは、現実の世界で何か変化があった場合、もう一方の世界でもリアルタイムに変化が起こります。それは常に動的で、静止した世界ではありません。もしあなたがバーチャルの世界のロボットとリンクしたとすると、あなたが実際に腕を動かせば、バーチャルの世界でロボットが同じように腕を動かすでしょう。つまりリンクした両者の間では、一方が動けば、もう一方の世界でもリアルタイムに動くということです。

Google Glassを使って、スキャンした自分のリビングルームに新しいイスを置いたらどうなるか、というようなことをシミュレーションするプログラムがあります。いろいろなタイプのイスを試して、リビングルームに置いたときにどう見えるか、あたかも自分のリビングにいるかのように歩きながら見ることができるんです。事前にそうしたシミュレーションをしておけば、実際に届いてから驚かずに済みますからね。

それと同じように、ミラー・ワールドでも街を歩きながら普段どおりに行動することができるでしょう。そこにはリアルとバーチャルの連続性があるからです。また理想を言えば、それは分権化された場所であれば良いと思います。Webのようにひとつの企業が所有、運用するのではなく、部分部分をそれぞれ別の人が持っている。例えば、実際の病院やショッピングモールが、それぞれバーチャルの病院やモールを作って街を構成する。その街には現実の世界と同じ、すべてのものが含まれているのです。

人類が初めて構築する
地球規模のプラットフォーム
Global Platform

近年、よくInternet of Things (IoT/モノのインターネット)が謳われますが、私が今話している世界は、それよりもっとずっと大きいものです。IoTは、そのほんの一部に過ぎません。私が言っているのは、すべてのもの、あらゆる場所がカバーされる、とても巨大なところです。そして重要なのは、グローバルなプラットフォームであること。人類が初めて構築する本当の地球規模のプラットフォームだということです。
ところがわれわれは、まだそれに対する準備ができていません。どのようなメリットをもたらすのか、そしてそこから出てくる課題や問題に対して備えができていないのが現状です。

このプラットフォームの世界で最も魅力的なコンテンツは何でしょうか? 最高にクールな場所や素晴らしいゲームではなく、そこに本物の人がいるということです。人間こそが一番の魅力なのです。人間のデジタルバージョンを作って、そのデジタルバージョンたちがこのバーチャルの世界に住む。それが最も魅力的な部分となるでしょう。
このミラー・ワールドは、これまでのソーシャルメディアの中で、最もソーシャルなものなる可能性があります。ミラー・ワールドに行って誰かに会う。人に会うためにミラー・ワールドに行く。そんな場所になるでしょう。

最初のプラットフォームであるWebは、本や雑誌、航空会社の情報、あるいは小売とかレジなどの情報を収集し、それをコンピュータが読めるような「機械可読(Machine readable)」の状態にしました。それによって、検索できるようにするためです。例えば、Googleのアルゴリズムを世界中の情報に適用することによって、その情報が以前よりもずっと価値を高めることになりました。コンピュータが情報を読めるようにすること、すなわち機械可読にすること、それが最初のプラットフォーム、Webでした。

私たちが手に入れた2つ目のプラットフォーム、それはソーシャルメディアでした。ソーシャルメディアは、人の行動や人間関係といった情報を集め、人間を機械可読にしたのです。そこには、良い点も悪い点もありますが、ソーシャルメディアのメリットは、アルゴリズムを人間の行動に適用できるようになったことではないでしょうか。

そして、3つ目のプラットフォームでは、それ以外のすべてを機械可読にします。すべての場所やすべてのモノをスキャニングすれば、アルゴリズムを使ってそれらを読み取ることができるようになる。そうすると、高度な人工知能や機械、技術を適用して、新たな価値をこの世界から抽出できるようになります。それこそが、これから起きる、今すでに始まっている大きなイベントなのです。
情報や人間、そして残りのすべてのものが機械可読になる。それは、世界自体が機械可読になるということ。リアルの世界は、アルゴリズムの力が適用されるようになるでしょう。

新しいプラットフォームで
勝利するのは誰なのか?
Who wins?

では、その3つ目のプラットフォームでは、誰が勝者になるのでしょうか?

まず「AI」。人工知能は、このプラットフォームの基盤となる技術です。AIがなければ、この世界は実現できません。安価でユビキタス、そしてどんどん改良するAIであることを前提に、AIが勝者の1つとなるでしょう。

一方、世界で今最もパワーを持っているのは、「最も大きなビッグデータ(Biggest Data)」を持っている企業です。Google、Amazon、Facebook、彼らは大量の情報を収集することによって、力を付けたと言えます。これから20年後に大手と言われている企業は、AIとVRの企業だと思います。私が予測する世界では、彼らが最も大量の情報を収集できるからです。つまりビッグデータがもうひとつの勝者です。

そして、「オープン(Open Prevail)」。これも勝ちます。新しい世界は、Webのようにある程度オープンでなければ実現できません。誰もが参加できる開かれたシステムが必要なのです。世界中の人々に参加してもらうことで、本当の意味でのグローバルなプラットフォームになるでしょう。閉鎖的で、特定の企業だけが専有権を持っていたら、それほど普及しないと思います。

このようなテクノロジーが一般の家庭に浸透する前に、まず職場で使われるようになると考えられます。「エンタープライズ・ファースト(Enterprise first)」です。倉庫や病院、あるいはオフィス向けにまずは展開されると思います。そこで多くの時間を費やしてから、自宅や街中で見られるようになるでしょう。

新しいプラットフォームでは、「新しいインターフェース(New UX)」も重要です。指でのタイプ入力や画面上をスワイプしなくても、例えばジェスチャや音声を使って操作できるようになります。それらの技術は、今はまだ開発途上です。そのため、これらを開発することも大きなチャンスになるはずです。

さて、現状はどうでしょうか? 実は、何百というシリコンバレーのスタートアップが、これらを実現しようとすでに作業を始めています。それぞれが断片的に、小さな部分を開発しています。新しい世界で最も成功する企業は、おそらく今現在主流ではない企業でしょう。それが歴史のパターンだからです。

私はここまで、懸念される問題点についてお話しませんでした。これから訪れる世界で、あるいはその過程で、どのような問題が発生するかを話していません。また、それによって人間に対してのアプローチがどう変わるのか、この技術をどのように展開したらより良い人間になれるのかということにも、触れずにおきました。それは、この後のディスカッションで取り上げる話題だと思っています。
いずれにせよ、このテクノロジーが大きなビジネスチャンスを秘めているということをお話したかったのです。私たちはこの機会を大いに生かしていきましょう。

ありがとうございました。