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メンバーズ・アイズ:荻上 チキ

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技術が拓くインクルーシブデザイン

『未来をつくる権利 社会問題を読み解く6つの講義』
(荻上 チキ:著 NHK出版)

ラジオのパーソナリティー、ニュースサイト「シノドス」の編集長、テレビ報道番組のコメンテーターとしても活躍する荻上チキ氏は、国際問題から政治、社会、科学、文化など様々なジャンルの情報を取り上げている。TBSラジオ『荻上チキSession-22』では、放送文化の発展に貢献した番組や個人等に贈られるギャラクシー賞を、2016年、17年と2年連続で受賞。様々な分野の専門家にインタビューを試み、社会問題を解決するための提言も数多く行っている。『ウェブ炎上』『災害支援手帖』『未来をつくる権利』他、その著書も多い。

荻上氏は『未来をつくる権利』の中で、「サイボーグ化する身体」と題して、ロボットスーツHAL®について書いている。HAL®はサイバーダイン社が開発した医療・福祉分野などで活用する「サイボーグ型ロボット」で、身体に装着することで歩行や重労働などをアシストするもの。たとえば、歩きたいと考えると、脳から筋肉に信号が送られるが、この信号をHAL®が読み取り、思い通りに動くことができるというメカニズムだ。

2013年に「HALスイッチ(現:サイバニックスイッチ)」を使い、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の患者さんと意思の疎通を図る実験イベントが行われた。ALSの患者が、動かない右腕にHALスイッチの電極を貼り、パソコンを操作してメッセージを入力するというものだ。

このイベントを取材した荻上氏は、「身体を動かせなくなる病気の方が、なんとか自分の意思で活動をしようとする際、デバイスと人とをつなぐ『スイッチ』の役割が重要となる。(中略)HALスイッチのような技術が発展すれば、生身の身体が動かせなくなっても、パソコンなどを通じてコミュニケーションを行えるようになります。車いすやストレッチャーと連動できるようになれば、自分の意思で移動できるようになるかもしれません。ロボットアームのようなものを使いこなすことで、生活の中の自由度が増すことも考えられます。工学的希望の1つの理想型は、“身体を拡張する権利”、すなわち“サイボーグになる権利”を認めることだと言えそうです」、と述べている。

すべての人が共存する社会を可能にするためには、あらゆる人々が排除されず、互いに尊重し合い、支え合う教育システムや社会システムの構築が求められている。科学技術の世界でも、今改めて、「インクルーシブデザイン」が求められているのだ。

新しい技術の発明は、新しい事故の発明

2016年にアメリカで、初の自動運転車による死亡事故が起こった。自動運転中でも常にハンドルに手を添えるようにという警告を運転手が無視したために起こったもので、車には欠陥はなかったという。こうした技術の進歩と、それに伴う事故や事件は、様々な要因によって繰り返されてきた。生まれて育ちつつある技術の芽も、様々な試練にさらされ、悪用されることもあるだろう。荻上氏は、次のように述べる。

「様々なアプリがつくられ、努力しないでも知識を得ることができます。たとえば、地図が読めなくてもアプリが誘導してくれるので、容易に目的地に着くことができます。それは基本的には良いことで、いわば「陽」の部分です。一方で、地図に被差別地域をマッピングする人たちがいる。それは「陰」の部分になりますよね。陽の形が変われば、陰の形も別物になって生まれてくるのです。メディア論では、新しい技術の発明は新しい事故の発明である、と定義されています。新しい陰が生まれてしまったならば、それに対する新しいソリューションが提案される必要があると思います」。

いじめ問題、貧困など、社会的弱者に関する問題にも取り組んでいる荻上氏。インターネット上の差別発言ややフェイク(偽)ニュースなどについて、チェックして注意を促す「最低限のルール」作りが必要だと話す。

「インターネット憲章のようなものを企業が集まって創り、国連などに持ち込んで、世界各国が加盟することによって、最低限のネット上の自由を提示して確保しなくてはならない面があると思うのです。そして、技術の確保と同時に、その技術をコントロールするための規範や憲章を新たに構築していくことが求められています」。

インターネットへのアクセスが容易になり、LINEやSNSなど、様々なサービスの利用が増えていく中で、改めて、法整備を含めた体制づくりが必要なのでは、と提起している。

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