Member's Eyes

メンバーズ・アイズ:ケヴィン・ケリー

ケヴィン・ケリー氏の写真

AIを活用してより賢い製品やサービスが生まれる

『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』

編集者、著述家として長年にわたって活躍するケヴィン・ケリー氏は、雑誌『WIRED』の創刊編集長を務めた人物だ。『WIRED』は、テクノロジーを通して社会や文化の未来を考えることをテーマとしたメディアで、英国、イタリア、ドイツ、日本で、それぞれ各国語版が出版され、日本版ウェブサイトでは、日本オリジナル記事以外に海外の翻訳記事を読むこともできる。ケリー氏は、ニューヨークタイムズ、エコノミスト、サイエンスなどで積極的な執筆活動を行っているが、2016年、『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』(ケヴィン・ケリー:著 服部 桂:訳 NHK出版)を著した。

本の原題は、『THE INEVITABLE』で、それは”不可避なもの”を意味する。ケリー氏は、「今後30年を形作ることになる12の不可避なテクノロジーの力」を提起し、それぞれに動詞の現在進行形をあてて分類している。それは、連続した行動を表現するものであり、1つ1つがトレンドとなり、今後30年は続いていくということを語っている。ケリー氏が分類した12のテクノロジーの力は、次の通りだ。

1. BECOMING なっていく
2. COGNIFYING 認知化していく
3. FLOWING 流れていく
4. SCREENING 画面で見ていく
5. ACCESSING 接続していく
6. SHARING 共有していく
7. FILTERING 選別していく
8. REMIXING リミックスしていく
9. INTERACTING 相互作用していく
10. TRACKING 追跡していく
11. QUESTIONING 質問していく
12. BEGINNING 始まっていく

出版記念講演で来日したケリー氏は、そのなかで特に3つのトレンドを強調している。1つは「コグニファイング」、2つ目は「インタラクティング」、そして3つ目は「トラッキング」だ。少し詳しい内容を見ていこう。

安価で、強力な人工知能(AI)が、あらゆるところに普及した時、他のシステムが、これに匹敵するインパクトを創造することは難しい。現在ある、あらゆるプロセスに、AIでほんの少しの有用な知能を組み込んでやるだけで、まるで違うレベルの働きをするようになる。動きのないモノをコグニファイすることで得られる利点は、産業革命の何百倍もの規模で、我々の生活に破壊的な変革をもたらすだろう、と語る。

「コグニファイング(認知化していく)」という言葉は、少しわかりにくいが、ケリー氏は、「ものごとをより賢くする」という意味の造語だと述べている。

本書では、AIを利用することで、賢くなる製品やサービスの可能性をいくつか上げている。例えば、コグニファイした洗濯は、スマート化した服たちによって、その洗い物に合わせた最良の指示が出され、洗濯時間も最適化される。あるいは、コグニファイしたスポーツは、スマートセンサーとAIが微妙な動きや接触を感知することで、スポーツゲームの審判や採点に新たな方法を実現できるようになり、アスリートの毎秒の動きから抽出された、非常に精度の高い統計データを活用すれば、最強の夢のチームを編成することもできるだろう、と予言する。

VRが実現する経験のインターネット

「インタラクティング(相互作用していく)」の代表的な技術として、ケリー氏は、「仮想現実(VR)」を挙げている。安価で、進化したVRは、「あらゆる経験の生産工場」になり、生身の人間が行くには危険過ぎる環境、例えば戦場、深海、火山といった場所を訪れることができるようになる。そして、人間が行くことそのものが難しい、お腹の中や、彗星の表面といった場所さえも経験できるようになるのだ。

そして、ゲームや旅行といったエンターテイメントに限らず、遠く離れた仕事仲間と、バーチャルな会話を行うといった利用法も、これからますます拡大していくだろう。ケリー氏は、こうしたVRや「拡張現実(AR)」によって、「情報のインターネットの時代から、経験のインターネットの時代になる」と語る。

「経験を売ったり、買ったり、シェアしたりする。『経験』が、これからの”新しい通貨”になるのです。VRが提供する経験は、知的な経験やドラマチックな経験だけではありません。例えば、病気の時に誰かが近くにいてくれるという経験であったり、デモを目の前で見る経験であったり、あらゆる種類の経験が対象となります。VRで学習をすれば、全身で経験することになるのでより深く理解でき、より長い記憶として刻まれることでしょう」。

さらに氏は、こんな風にも語っている。

「インタラクションの程度は向上していて、今後ますますその傾向が強まるだろう。インタラクティブでない単純なもの、例えば木の取っ手の付いたハンマーも、一方では存続し続ける。しかし、インタラクション可能なモノは何でも、スマートなハンマーを含め、われわれのインタラクティブな社会で、ますます価値を高めるだろう。(中略)われわれは革新的なインタラクションの方法を発明し始めたばかりで、その傾向はずっと続くだろう。テクノロジーの未来は、かなりの部分、新しいインタラクションをどう発見していくかにかかっている。これから30年の間に、きちんとインタラクションしないものは、故障していると見なされるようになるだろう」、と述べている。

あらゆるものが追跡される社会

最後にケリー氏が挙げたのは、「トラッキング(追跡していく)」だ。体温計、心拍計など、様々な医療用の超小型計測装置が腕時計や眼鏡、服などに取り付けられるようになった。いつでもどこでも自分の身体データの計測が可能となり、健康管理の手法として利用する人は、確実に増えている。あるいは、1日の行動やメール、スケジュールなどを記録し、保存することで、日記に変わるモノも誕生する。

こうした自律的な情報のトラッキングの一方で、氏は、思いもかけない形で、私たちの行動がトラッキングされていく未来についても眼を向ける。

「われわれインターネットの民は、自分自身、つまりほとんど自分の生活史しかトラッキングしない。しかし、モノのインターネットであるIoTはもっと巨大で、何十億ものモノが自らをトラッキングするだろう。これからの数十年間に生産されるモノにはほぼすべて、シリコンの小片が入っていて、ネットに接続されるようになるだろう。こうした広範な接続が実現すると、ここのモノがどのように使われているかを非常に正確に把握することが可能になる。(中略)あらゆるIoTの設計や、そのIoTが浮かぶクラウドの本質は、データの追跡だ。これから5年間で、クラウドに接続可能なデバイスが340億も製造されると考えられており、ものすごいデータの流れが生じる。クラウドにはそのデータが蓄積される。この追跡可能なクラウドに接続されるものはすべてトラッキングされる」と語る。

ケリー氏は、アメリカで日常的にトラッキングを行っているデバイスやシステムを調査してみたという。例えば、郵便物の記録、水道光熱の使用量、携帯電話の位置と通話記録、カメラ、スーパーの会員カード、ウェブでの活動などなど。こうした流れは不可避であり、そうした社会で重要になるのが「共監視」だ、とケリー氏は指摘する。

「誰もが情報の全体性を尊重し、シェアすることに責任を持ち、監視している相手から監視されることが義務となるだろう」。

プライバシーの尊重とパーソナライズされたサービスの享受を、いかにバランスさせていくのか。個々人が、その自覚を持たざるを得ない時代を迎えようとしているのだ。

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