Forum Report

「NEC未来創造会議」
第4回会議 レビュー

NEC未来創造会議 第4回目の大テーマは、「テクノロジーの進化と未来の安心、公平」。
人は、ユニバーサルな社会づくりに向けて何を望み、新しい技術は、何を補完してくれるのか。
1年間の会議の締めくくりに向かって、議論が白熱化してきています。

NEC未来創造会議メンバーの写真

「安全」、「安心」、「効率」、「公平」
を再考する

江村 克己の写真

「NECは、ブランドステートメントとして”Orchestrating a brighter world”をメッセージしています。未来に向かい、人が生きる、人が豊かに生きるために欠かせないもの。それは、『安全』、『安心』、『効率』、『公平』という4つの価値が実現された社会だと捉えています。では、豊かに生きるとは何なのだろう。安全、安心、効率、公平と言っていますが、その意味するものは何か。これをもう少し突き詰めて行きたい、実現したい未来像を皆さんと一緒に議論していく中で作っていきたいと、未来創造会議を始めたわけです。技術がいろいろなことを変えているのは間違いないんですが、『技術進化と併せて考えていかなければいけないことは何か』ということを議論していく必要があると思っています」と、NEC CTOの江村克己は改めて、未来創造会議の進捗を振り返りながら、これからの議論に向けて“技術と人”に関する再考察を提案した。

「これもちょっと漠としているんですけれども、『安全』とか『効率』は、技術で実現できることだと思います。効率を上げるということは、テクノロジーでほとんど実現しているわけです。ですが、『安心』とか『公平』というのは、人が受け止めることですね。ですから、技術が進んでも、必ずしも『安心』かどうかというのはわからないわけです。双方がぐるぐると、お互いにインタラクトしながら、進めるべき技術の方向性も、人が感じるものも変わっていくかもしれない。」

「『マズローの五大欲求』は、ピラミッド型に人間の欲求を5段階で表したものですが、ベースの生理的欲求や安全の欲求というものは、技術の進展によってカバーされてきていると思います。ところが上位の『自己実現』になると、人間についてもっと考えなければならないのではないかと…。こういうことを、少し時間軸を見据えながら、考えていくことが必要なのではないかと思います」。

マズローの五大欲求のフレームで考察

マズローの欲求 5段階
Maslow's hierarchy of needs

自動車が開発され、移動の自由や利便性が格段に上がった一方で、交通事故は多発するようになった。それを解決する一助として、次に自動ブレーキや自動運転などの技術も生まれている。技術の進展にはリスクもあるが、そのリスクの回避策として新しい技術もまた生まれてくるのだ。

「目を獲得したAI」が
ホワイトカラーの仕事を代替

ここで、今後、技術はどのような進展を遂げていくのか、AIを例に少し整理してみたい。東京大学特任准教授の松尾豊氏によると、ディープラーニングの進展によって、「目を獲得(画像認識)したAI」により、次に起こるのはロボティクスの台頭だという。例えば、現在までに自動化されている家電は、洗濯機、冷蔵庫、掃除機など、すべてが”目がない機械”である。洗濯物を畳んだり、ゴミを出したり、調理したり、片付けをしたりという、目を必要としている仕事が、これから自動化されていくはずであり、農業や建設など人手が掛かる産業で、こうした自動化が進むというのである。そして、目の技術の重要性を次のように語る。

松尾 豊氏の写真

「例えば、歩き廻っているうちに地図を作るとか、相手を見ただけで距離がわかる、その大きさがわかる、自分との位置関係がわかるというのは、生物が生きていく上でとても大事なことなのです。目から入ってくる情報から空間を再構成するという能力。知能の根底は、この「空間的認知」にあると思っています。空間的な認知というのがきちんとできるようになってくると、そこを介して言葉の意味を理解するようになる。つまり、『りんご』と言った時に、その『りんご』というのを空間的に再現し、『りんごが落ちる』という運動を脳の中で再現できるようになるはずなのです。そうすると、本当の意味での言葉の意味の理解というのができてくる」、と松尾氏。それによってもたらされるのは、例えば、自動翻訳、同時翻訳という機能であり、「今日、Googleが40カ国語を自動翻訳するイヤホンを出したというニュースがありましたが、そういう技術が一気に進んでくると思います」。

さらに2030年頃には、事務作業や簡単なホワイトカラーの仕事もロボットが代替するようになり、それが超巨大産業になるだろうと話す。

「現時点で言っている、AIによるホワイトカラーの代替というのは、これは基本的には今まであったITの技術と検索の技術による効率化なので、それほどたいした変化ではありません。ですが、『インテュイティブ・フィジックス(直感的に物理を理解する)』の段階に入ると、本当にその指示内容を理解して、頭の中で思い浮かべ、相手の心理的な状況も考慮した上で実行できるようになる」、と松尾氏は続けた。こうした技術の進展はやがて、「科学的発見をコンピューターができるようになり、様々な学問領域でコンピューターが人間を上回る」と、予測する。

技術に求められる
自然、愛、才能との関わり

では、AIが非常に賢くなり、様々な仕事を人より巧く、効率的にこなすようになった時、人は何に喜びを見出し、豊かな暮らしを手に入れることができるのだろう。

塩沼 亮潤氏の写真

「私は、田舎で畑を耕しながら生活させて頂いているのですが、時代がこういうことになっているのかということを皆さんから教えられ、非常に勉強にもなるし、ある意味カルチャーショックも受けております。安心で公平で、効率的で、安全な世の中にするという議論をしていくために、何のために我々はこの世の中に生まれてきたのだろうか、ということを今、考えていました」。こう話すのは、大阿闍梨の塩沼亮潤氏だ。心が一番幸せを感じる時、それはどういう時なのだろうか。技術は、それをサポートできるのだろうか。

「コンピューター、ただそれだけでは大きな革新がなかった。それに電話回線を繋げることによって、世界がバッと繋がっていった。では、我々はどうか。個人個人の存在が、いろいろな個性がある中で、お互いに恨みや憎しみがなく、心と心で繋がっている。それが家庭であり、職場であり、国家であり・・・。お互いが、心という回線でもって繋がっていくということが、やはり一番大事なのではないかなと思うのです。この何か月かAIの議論を勉強させて頂いて、これにまだ出てきていないもの。それは、”愛”ではないでしょうか」。

そして塩沼氏は、自身の修行体験から次のように続けた。

「我々は肉体を持っていますが、肉体を持っているがゆえに、いろいろな苦痛を受けることもあります。苦痛こそが、ある意味、良い自己を育てる、良い栄養素ともなるわけなのです。私は、修行の世界で生きた人間です。人間は本来喜びを得るために生まれてくるのだという考え方からすれば、何故そんな苦痛を受けるのかということを不思議に思うかもしれません。”生老病死”といって、この世にオギャーと言って誕生して、老いもあり、病もあり、そしてやがて死に至る。肉体を持っているからこその苦痛。このままならないものが、心を育ててくれるのです。老いて、人と人は衝突したり、色々な失敗があって、角が取れて、丸くなってくる。同時に、やはり豊かに生きるということは、私は”自然に生きること”だと思うのです。例えば、東から昇ってくるお天道様が西に沈むのは、自然の法則。これはいかなる技術革新によっても変えることはできません。自然界にある一定の法則。自然との協調の中での進化というものが、大事になってくるのではないでしょうか」。

技術によって豊かになる部分があることは、歴史が物語ってもいる。こう話すのは、雑誌『WIRED』創刊編集長であるケヴィン・ケリー氏だ。

ミチオ・カク氏とケヴィン・ケリー氏の写真

「先ほどのマズローの基本的な欲求のヒエラルキーですが、人は生理学的な欲求から段階的に、上の次元への昇華をニーズとして持つようになる。こうした志向自体が、技術のお陰で進んできているのです。技術はやはり、このピラミッドの下の部分を充足してくれるものです。歴史を振り返れば、長い人類の歴史の中でも、今の人たちはより安心、安全で長生きしています。私は新しいAIの技術、あるいはVRなどの技術が、上のニーズの欲求、自己実現や自身の尊厳をも助けてくれるだろうと思います。人類史の中でも、シェイクスピアや、アインシュタインや、ベートーベンやゴッホなど、いろいろと表現に長けている天才たちが登場しました。こうした人たち、例えばアインシュタインが、原子が発見される前に生まれたとします。そうしたらアインシュタインは、原子の研究はできなかった。もったいないですよね。油絵の具ができる前にゴッホが生まれていれば、彼の天賦の才能は無駄になった。ベートーベンが、シンフォニーやバイオリンや、ピアノができる前の時代に生きていたら、彼の音楽も生まれていないわけです。つまり、その”時の技術”があったからこそ、彼ら天才たちが自己実現できたわけです。

今、世界のどこかに10歳の天才少女がいる。彼女は、その才能を自己実現のために使いこなせる技術を、私たちが生み出すのを待っているのではないでしょうか。マズローの一番上の自己実現の欲求を満たすために、まだ生まれていない技術を待っている人がいるとすれば、私たちは、その責任を担っていると思います。この世の中に生まれてくるすべての人が、自己実現の手段を、そして自分の才能を地球上の他の人と分かち合うチャンスを待っている。我々が、こうした人々のための技術を開発しない限り、折角のその才能も、無駄に終わってしまいます」。

さらにケリー氏は、自己実現の持つ意義について語った。「世界平和になるのは、皆が皆、自己実現しているからだと思います。やはり、もし一番底辺の二つの層のところに地球の人たち皆がいたらば、世界平和も望めないと思います。ですので、技術はほんの僅かな人たちだけしか自己実現できなかったという、その秩序を変えているのだと思います」。

一人ひとりの価値観を大切にする
社会システムを目指して

技術の開発は、現在を支えることであり、未来を創ることにつながるのは確かだ。しかし人と切り離したところに求められる技術はない、ということに誰しもが思い至るのではないだろうか。

羽生 善治氏の写真

「未来を考えるというのは、すべての人々が関心を持っています。安心や安全を考える時に、未来はどのようになっていくのかということに、ある程度見通しが立っているということが非常に大事なことではないかという気がしています。先ほど松尾先生から、技術的なところは、ある程度道筋が見えているとお聞きしました。その部分に関しては、安心はできると思うのです。では、リアルな現実で何が起こるのか、どういう社会になるのかということについては、見えていないところがあります。この未来創造会議などもそうだと思うのですが、こういうような感じになっていくということを提示することによって見えてくる、安心もあると思っています」。

「後もう一つ、例えば、効率という話になった時に、マクロの世界の効率とミクロの世界の効率があると思いますが、今現在の社会の構造であったり、資本主義という制度であったり、どうしてもマクロの方を優先してしまうところがあります。ミクロであったり、マイノリティであったり、そういう人たちを決して置き去りにしない、忘れないという視点を持ち続けるということが、これからの技術を進めていく上で、必要不可欠なことなのではないかと思いました」と話すのは、将棋棋士の羽生善治氏である。

また、評論家の荻上チキ氏は、技術が人になし得ることについて次のように語った。

荻上 チキ氏の写真

「先ほど愛の話がありました。それはとても重要な指摘だと思うのです。この社会には、いろいろな愛がある。ただ、その愛の形を社会はすごく狭めているのです。例えば、ブレインマシーンやブレインネットの話があって、認知症や抑鬱状態というものに対して、ある程度先回りしてケアできるようになる。しかし、例えばゲイの方が、『ゲイだと可哀想だから、治療してあげましょう』、とかが横行するようになったら、それは人権を無視しているのではないかと…。今、ネット上で行なわれているのが、特定の愛の形を巡る闘争であったり、特定の生き方に対する闘争であって、そこから逸脱したものを、皆で”ソーシャルリンチ”するというような状況というのがあったりするわけです。今の個人の価値観というものは、溶け込むとか、社会とか、周りとの線引きというものが変わってしまうということを恐れている。多様性が実現すると怖い。移民、難民がやってくると自分たちの公平性が少なくなってしまうかもしれないから囲い込まなくてはいけない。そうしたものに対して、怖さを覚えなくていいのだというビジョンを提供する。技術の活用の在り方というものを、今あるプアな価値観を改善するために、想像力をリッチにして、そちらの方にしっかりと社会モードを擦り合わせていくというか、調節していくというようなことが必要になってくるのかなと」。

多様性との“交歓”が
未来創造のキーワード

「問いたいのは、AIの産業が自動車産業より大きくなった場合に、私たちに反抗してくるのかということ。スペースXとテスラのCEOイーロン・マスク氏と、FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が議論をしました。『AIは良いことだ。社会にとって良い』とザッカーバーグ氏が言いました。しかしマスク氏は『いや、そんなことはない。私たちの存在を脅かしている。そして人類の存在を脅かす。人類に取って代わろうとしている』と語っていました。私は、CNNでゲストショーに出ていたのですが、ザッカーバーグ氏が正しいと思うか、マスク氏が正しいか、どちらかと聞かれました。私は二人共正しいと答えました。短期的には、ザッカーバーグ氏が言う通りだと思います。しかし、長期的に言えば、マスク氏の見方が正しい。どこが転換点なのかということが、ポイントになると思います。ザッカーバーグ氏が言う、AIがメリットをもたらす、そして進化を手伝ってくれる、繁栄させてくれるというところと、マスク氏が言っている、ロボットに征服される、人間はもう動物園の柵の中に飼われてしまう、という双方の転換点はどこなのか。おそらく、ロボットが自己認識できるようになるか、だと思います。ロボットは、自分がロボットだという認識を持っていません。人間とロボットの違いを、ロボットは認識していません。ロボットは、ロボットが何か、人間が何か、わかっていないからです。これは私の個人的な意見ですが、おそらくロボットは徐々に、こうした自己認識ができるようになる。今世紀の終り頃には、その能力を身につけると思います」と語るのは、ニューヨーク市立大学教授のミチオ・カク氏である。

林 千晶氏の写真

AIの進化には、大きな期待が寄せられると同時に、現時点では想像できないような脅威も考えられるなかで、人とAIは、どう向き合っていけばよいのだろうか。モデレーターの林千晶氏は、次のような危惧を話す。

「自分の人生を自分で生きている時は、不安でもあり、苦労もあるが、自分でやれば手応えにもなる。そう考える一方で、人間はあまりにも、見えている世界も、捉えていることも馬鹿だから、頭の良い人工知能が出してくれる方が全部正しいよねと、明日にもそうなりそうな自分もいます。自分の不安を全部人工知能側に渡して、『だって人工知能が決めてくれたんだもん。人工知能が教えてくれたんだもん』とやると、一時的には安心だが、ずっと安心なのだろうかと…。そして、人工知能は人に合わせて「あなたはこうしなさい、あなたはこうしなさい」と言ってくれるので、人工知能に全部の判断を委ねた時、私たちは多様にはなるのだろうかとか、その辺が少し気になっています」。

そういった不安に答えたのは、ケリー氏である。

「私たちが、ロボットをちゃんと信頼できるのか、信頼していいのか。ここで考えるべき大事なことは、AIは一つではなく、いろいろなタイプのAIがあることです。感情的に結びつきを感じられるAIもあれば、まったくそういう気持ちを持てないAIもあるでしょう。AIを考える時には、他の惑星からやってきたエイリアンだと思うべきです。エイリアンにアドバイスを求めたり、何か答を求めることもあるでしょう。意識しなければならないのは、私たちと考え方が違うのだということです。私たちと考え方が違うということ、それは私たちにとってプラスになります。私たちに外からの視点をもたらしてくれるからです。しかし、ロボットを人間の代わりになるものとは思わないでしょう。こういう場面では使いたいと思うが、取って代わるものとは思わないはずです。私たちはこれから、色々な形の関わり方をAIとすると思います。例えばしゃべるおもちゃの人形、しゃべらない人形よりもずっとパワフルかもしれません。しかし、だからといって人の代わりにはならない。ただ単にこれまでの人形の代わりになるだけなのです。問題が出てきて、その解決を考える時、子どもたちに、しゃべる人形との正しい関わり方を教えていかなければならないと思います。人間のいろいろな側面のすべてを、AIが持っているわけではありません。他の存在とどう関わるのか。今は例えば、動物との関わりがあります。犬を飼っているとか、猫を飼っているとか、馬の場合もあるでしょう。そのように、語りかけてくれるいろいろなもの、ロボットや人形、台所まわりのマシンとの関わり方を、私たちは覚えていくことになると思います。AIは一つではない、幾つもの種がある、多様な存在があるということを理解することが大切だと思います。それぞれのAIには個性があり、特徴があり、個別の質を持っています。それぞれのメリットやデメリットもあるでしょう。こういったいろいろな種類のAIと関係を築いていく知識やスキルを持つことが必要な時代になるのです」。

第4回会議の様子

今後の数十年で、テクノロジーは、加速度的に進展していくことに疑いの余地はない。しかしそこでは、多様な開発者の立場から、直接的に技術の進展を享受し得ない立場のマイノリティまでを含めた、多様な使い手の立場から、自律的な「安全」、「安心」、「効率」、「公平」が実現された豊かな社会を考えていくことが求められている。多様性とどう向き合い、“交歓”しうる技術を社会実装していくのか。11月に開催される「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO」における会議に向け、第4回 NEC未来創造会議のキーワードが浮き彫りにされた。

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