Event Report: C&Cユーザーフォーラム & iEXPO 2017

NEC未来創造会議

第2部 テーマ(1)「AIの進化がもたらす未来社会」
プレゼンテーション

ディープラーニングによる社会の変化

東京大学大学院特任准教授 松尾豊氏によるプレゼンテーション

最近、ディープラーニングの技術が非常に進み、いろいろな画像や映像の中から何が起こっているかを認識する技術がどんどん進んでいます。一方で、画像認識技術と、強化学習(*)という技術を組み合わせることにより、ロボットも複雑なことが上手にできるようになってきています。

*強化学習:行動の選択肢と連続した行動の結果に与えられる報酬が用意されていて、試行錯誤を通じて、価値を最大化する行動を学ぶ手法。

このような変化を一言で言うと、「目の誕生」だと。およそ5億4200万年前から5億3000万年前という短い期間に、現存する生物のすべての種、門が出揃ったとされる「カンブリア爆発」。その原因として、生物が目を持つことによって生存上圧倒的に有利になり大繁殖し、生物の生存戦略が多様化することによって種が多様化したとする「光スイッチ説」があります。それと同じことが、機械やロボットの世界でもこれから起こるのではないか。つまり、機械、ロボットの「カンブリア爆発」がこれから起こるのではないかと思っています。「網膜」にあたる「イメージセンサ」と、その後方の「視覚野」での処理にあたるディープラーニングの技術を組み合わせて初めて、このような目を持った機械ができるようになる。それにより、今まで自動化、機械化ができなかった農業、建設、食品加工などの領域に大きなインパクトをもたらすでしょう。

そうなると、一体人間は何の仕事をすればよいのか。より人同士のコミュニケーションを促進するような仕事や、目的を設定、価値判断する責任主体、このような仕事がメインになってくるかもしれない。いずれにしても、人とは何か、ということを考えていかないといけない。知能の研究をすることは、逆にいうと、知能を除いた人間の人間性は一体何だろうか、と考えることでもあると思います。

松尾豊氏の写真

東京大学大学院特任准教授

松尾豊氏

テクノロジーの進化と人の関わり方

将棋棋士 羽生善治氏によるプレゼンテーション

将棋の世界も、他のボードゲームでも、最近ソフトが強くなってきています。今まではある種、限定的な領域において驚異的なパフォーマンスを発揮していたのですが、最近は様相が変わり、人間がとても理解できない、難しい判断がつきかねるところで、人間が考えつかないような一手、発想を提示してくれることがあります。

何が大きく変わったか、というと、データをたくさん集め、たくさん計算することではなく、正しく評価をすることなのです。評価というのが一番難しく、それが単一の基準で良い悪いが決まられればいいのですが、状況によって流動的に変化していくものであり、最近の技術によって非常に精度が高い、また驚異的なスピードで強くなっている、というのが実情です。ですから、将棋の世界でも、それを使って分析や研究をするのが当たり前の時代になってきています。

そこで何が起こっているのかというと、人間には明らかに発想の盲点とか死角があり、ソフトがそれを提示することによって発想の幅を広げ、創造性を高めるところがあります。今まで人間しか持っていなかった高度な知能を、 AIという違った種類の、違った角度を持つ知性が現れ、比較することによって新たな可能性が広がっている、というのが実情だと思っています。

ただし、そのプロセスはブラックボックスで、何が起こっているか分からない。これを理解していくのはどういうことなのか、と考えることがあります。例えば、ミチオ・カク先生のような理論物理学の人達は、9次元とか11次元とか、普通では考えられないような概念、コンセプトを頭の中で理解することができる。その複雑なコンセプト概念みたいなものを理解していくことが、実はAI とか将棋ソフトという手法を理解する鍵になるのではないか。また技術の進展と同時に、その人間の脳のことも同時に解明されていくと期待しています。

羽生善治氏の写真

将棋棋士

羽生善治氏

第2部 テーマ(1)「AIの進化がもたらす未来社会」
パネルディスカッション

AIは恐れるべき存在なのか

「ここまでは、ポジティブなストーリーばかりだったのですが、人間が何をやっているのか分からない世界に入ってしまうのは、どこか怖くないですか」と、羽生氏に投げかけたのは、モデレーターを務めるロフトワーク代表取締役の林千晶氏である。

パネルディスカッションの様子

「AI単体だけではなく、AIプラス人間の方が、より高いパフォーマンスを発揮するということはある、と思っております。AIと人間では、人間の方がミスの頻度が多いですが、AIがミスするときはより大きな深いミスをしまう。そういう存在を絶対的なものとして過信・信仰してしまうことが、一番危険なことではないかと思っています。もちろん非常に便利で、社会のために有意義なものだとは思いますが、それを支える制度や人間の介在のようなものが必要になるでしょう」と、羽生氏。

「人間には死角があるという話でしたが、ディープニューラルネットにも実は死角があり、例えば絵の中の猫を、小さな変化で猫と全然違うものだと判断してしまう場合があります。我々は、それを補完し合うようにしたいのだと思います。AIは我々が死角に気がつけるようにしてくれる、そして我々は、AIのブラインドスポットを指摘する」と、人間とAIとの補完関係の重要性を示したのは、『WIRED』誌創刊編集長のケヴィン・ケリー氏だ。

それに対して評論家の荻上チキ氏は、技術の可能性を妨げる慣性について危惧を語った。
「個人的には、AI対人間ということは、まだ考えておりません。例えばソクラテスは、『文字の発明によって、人間はより怠惰になり、知性を失ってしまう』と言っていた。しかし、実際に起きたことは、活字を使って様々な知識を獲得し、知性をより高めていくことができるようになった。AI との付き合い方も補完的な関係がこれから続いて行くという意味では、ポジティブな設計をすればいいと思っている。一方で、社会の慣性、今まで慣れてきたものこそが単一の素晴らしい価値であるという力が、技術と人間の関係性を妨げていく。それにより本来持っている議論の可能性が狭まる方が、今は心配です」。

また、反体制の考え方はいつも出てくると話すのは、塩慈眼寺住職の塩沼亮潤氏である。
「私もはじめの頃は、これ以上コンピュータもAIという考え方も、もうこのくらいでいいのではないか、と思っておりました。けれども、 皆さんと一緒に勉強していく中で、それらが、何かこの我々の宇宙、地球であったり、国であったり、地域、そして文化といったものをより協調性をもって共存していく一つのツールになるのではないか、ということが見えてきました。我々のこの生活をより豊かにしていくには、人間がみんなでより多くコントロールして、それを創造していかなければならない、と感じました」。

ミチオ・カク氏の写真

ニューヨーク市立大学 理論物理学 教授

ミチオ・カク氏

ニューヨーク市立大学教授のミチオ・カク氏も、物理学者の立場から、技術の限界と現状について冷静な指摘をする。
「本当にロボットが人間にとって変わりうるのか。一番進んでいるロボットと動物の賢さを比べても、今はまだゴキブリくらいです。確かに将来、ロボットはもっと賢くなるでしょう。今世紀の終わり頃には、もしかすると自意識を持つ、猿と同じぐらいの賢さを持つロボットが出てくるかもしれません。自意識が生まれると、危険になるだろうとは思いますが、今のロボットには3つのことができません。1つ目は人間とのやりとり。今一番進んでいるとされるロボットでも、はっきり言ってテープレコーダーと同じです。ゴミを拾うことはできないし、ある程度のスキルが必要な仕事はロボットにはできません。2つ目は常識。水は濡れているものだということ、母親は娘より年上だということは、ロボットには分かりません。3つ目はパターン認識です。パターン認識というのは今、非常に進んできていますが、最先端のロボットを道に置くと、パターン認識しなくてはいけないものがあまりにも多いので、車にひかれてしまいます。多分、ロボットが危険になる時代というのは、今世紀の終わりくらいだろうと。その頃には、自意識をもったロボットがでてきて、水漏れを直す、トイレの修理ができる、庭をつくることができるような、そんなロボットがでるだろう。ただ、何十年も先の話だと思います」。

AIが社会にもたらす変化とは

では、人間がAIやロボットなどと共生していくこれからの10〜20年の中で、日々の人間という視点に、どのような大きな変化が起こるのだろうか

塩沼氏は次のように語る。
「大きな変化というよりも、コンピュータ、ロボットをコントロールするというのは、あくまでも人間だと思うのです。我々は、肉体を持っています。故に、辛いことも、苦しいこともあれば、汗を流すし、涙も流す。この汗と涙こそが、この内面からにじみ出てくる人格や品格といったものを高めてくれると思うのです。まず、我々人間が変わっていくことによって、社会やロボットとの関係も変わってくるのではないか、と思います」。

パネルディスカッションの様子

羽生氏からは、教育に関する意見が出た。
「一つはビッグデータを使ったマスのアプローチ。もう一つは、個々人の、生まれてから育っていくデータをもとにした一番適切な教育や練習方法というのも開発されていくでしょう。ただ一方で、例えば塩沼住職のような、そういったものとは全く違う世界のところで人間の大きな可能性を発揮する方たちから学ぶということも、逆にデジタルの世界が進んだ先には大切になってくると思っています」。

「変化としては、規範が変わると思いますし、上手に変えていく必要があると思います。かつては、社会の資源が乏しいから、混乱を避けるために他人にも同じような振る舞いを期待していた。でもこれから様々な情報処理が可能になってくると、多様な振る舞いにも社会のキャパシティがオーバーしないという状況が作れると思うのです。先ほどケリーさんは『ダイバージェンス』と『コンバージェンス』の両方がおきる、と言いました。僕の言葉でいうと、『コンバージェンス』というのは不幸を最小化する力が進んでいく、誰もが一定の栄養や睡眠といった生活というものを満足することができる、同時に『幸福を最大化することができる』ソーシャル成形できる、ということ。、今までは『幸福モデル』は『家族はこうあるべき」『人間はこうあるべき』といった『べき論」というある種の規範に縛られていた。その『べき論』が『不幸にはならないべき」というところだけは収斂するのですが、他の規範性というものは変わって、おそらく多様になってくと思います』と話すのは、荻上氏だ。

ケリー氏からは、「技術のよいところの一つは、新しいニーズや欲求を生み出すところにあると思います。今、毎日のように、グーグルは10億もの質問に答えています。20年前には人は、答えはおろか質問すら見い出していなかったのです。google が、AI が我々に「質問をする」そして「答えを求める」ように変えました。もう一つは、予測のあり方です。予測というのは非常にお金がかかるものでした。でも、今は AI が非常に安く、あるいは無料で予測を立ててくれます。きっとこれからは AIの予測が我々の生活の一部になってくると思います。そこから、今まで気がつかなかったようなベネフィットも出てくるでしょう」という指摘があった。

NEC CTOの江村克己氏は、AIと人の関係をどう捉えるかを考えるときに『artificial intelligence』なのか、『augmented intelligence』なのか、ということが議論に上がると話す。
「人間の能力を上げていくためにAIをどのように使っていくか、ということをイメージしていくことなのではないか、と思うのです。技術が進んできたことを理解した時、私たちが社会をどう変えていくかというのが、やはり突きつけられているし、それが次の社会を決めていく。だから、次の社会は何かというのは、我々がどう考えるか、ということに拠っているのではないか、と思います」。

そして、モデレーターの林氏は1部のまとめとして、「まさにそれが後半のテーマに直結してくるのですが、このような技術が生まれてきた時に、手放しに技術を進化させているだけでは豊かになるわけではない。人間が常にそれを設計してきて、今の私たちがあり、未来を作って行くのだ、ということで、次のテーマに移りたいと思います」と締めた。

パネルディスカッションの様子

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