Column

未来創造会議から浮かびあがる注目のテーマ : 1

TECHNOLOGY
AI・ロボティクス・バイオが拓く技術の可能性とは

遺伝子進化を凌駕する文化とテクノロジー

ミチオ・カク氏の写真

今、社会そのものがデジタル化されています。そして、知識があらゆるところにあります。音楽から始まり、メディアが、交通手段が、医療の世界がデジタル化され、資本主義のデジタル化も始まっています。近い将来、スマートディスプレイ機能を持ったコンタクトレンズを通してスーパーの棚を見ると、どこが一番良い商品を出しているのか、一番安い製品は何なのか、がひと目でわかるようになります。

ニューヨーク市立大学 理論物理学 教授

ミチオ・カク氏

松尾 豊氏の写真

生存確率を最大化するには、進化という方法もあれば、学習という方法もある。この二つの違いは、微分可能性です。ヒトは、ニューロンの繋がりが強くなったり、弱くなったりすることで、学習しています。これは、ある体験を微分して勾配をとって、勾配方向に変化させていることを意味します。少しだけ変えてみて、良い方向にどんどん動かしていく。こうした学習により、人も社会も、良い方向に動かすことができるはずです。

東京大学大学院 特任准教授

松尾 豊氏

荻上 チキ氏の写真

これまで1.0だった世界や社会がこう変わる、といった大きなビジョンではなく、具体的な法律の問題点に関して、少しだけ条文を変える。具体的な個人の人権侵害に対して、問題提起をする。1.0を1.01にするような、世の中にパッチを当てる仕事が僕の役割だと思っています。

評論家

荻上 チキ氏

近年の遺伝子研究の進展で、今でもヒトの特定の環境に適応する進化が続いていることが明らかになっている。血液中に多くの酸素を取り込める遺伝子を持つ、高地に暮らすチベットやエチオピアの人々、代謝を調節するホルモンに関わる遺伝子の変異を獲得した、砂漠の気候に適応したオーストラリアの人々など、世界各地に散らばった人類は、「生存」という新たな環境との適応を迫られ、ヒトの遺伝子には様々な変異が起きた。

しかし、こうした遺伝子レベルの進化は、ある特徴が偶然現れるのを待ち、繁殖を通じて子孫にその特徴を広めていくという悠長なものである。世代の交代には30年以上もかかり、有利な特徴が集団内に行き渡るのは、何千年、何万年も後である。

現代の社会では、生存や繁殖の成功とそれを通じた進化において、こうした時間がかかる遺伝子の進化に加え、文化とテクノロジーの融合が大きな役割を担い始めた。今やテクノロジーは遺伝子の進化よりもはるかに早く進歩し、進化に匹敵する役割を果たしている。身体能力を高め、知識の幅を広げ、前人未到の過酷な環境への進出を可能にしているのだ。

望み通りの人間を生み出す技術開発が加速

ミチオ・カク氏の写真

これから3種類の不死が、現実のものとなろうとしています。1つは、デジタルな不死。インターネットに打ち込んだ記憶、経験、行動のすべてをデジタル化すれば、あなたという人間をおおよそ復元することができます。また、欧米で今、「コネクトン」という、人間の脳のすべてをデジタル化する研究が進められています。その情報が死後も残るとすれば、魂の不死、魂のライブラリーも可能になります。第3は、生物学的、遺伝子的な不死です。加齢を司る遺伝子を隔離したり、加齢遺伝子の複製過程のミスを修正することで、加齢をある年齢で止めてしまう技術さえも研究されているのです。

ニューヨーク市立大学 理論物理学 教授

ミチオ・カク氏

荻上 チキ氏の写真

新しい不死、新しい生存を考える時、「新しい死」についても考えなければなりません。魂のライブラリーデータが失われたり、改ざんされたり、乗っ取られたりすることによって、デジタルな不死の死もあり得るということです。また、老化を防ぐ技術に、万人がアクセスできるわけではありません。そこには、富の再配分が関わってくる。幸福追求のロジックは、ある種のセパレート化、クラスター化が進んでくると思います。

評論家

荻上 チキ氏

テクノロジーの重要性が高まるにつれ、ますます重要されるようになった能力は、優れた知能である。それを手っ取り早く獲得するための技術も、様々に台頭し始めた。オックスフォード大学・人類未来研究所は、体外受精において、最も知能の高い卵を選んで母体に戻せば、子供のIQは偶然に任せる場合より、格段に高くなることを明らかにした。こうした選別を数世代繰り返せば、天才を生み出すこともできるのだ。

もちろん、知能のベースとなる遺伝情報は複雑で、充分にはわかっていない。計算能力や空間認識力、分析的思考力、共感力など、そこには1万種ほどの遺伝子が関わっていると言われている。しかし、ミシガン州立大学のスティーブン・シューは、AIなどの活用で、今後10年でそれらを選別できると予測している。

こうした体外受精と遺伝子診断を組み合わせて、難病の遺伝子を持つ受精卵を特定することも可能になった。さらには、「CRISPER-Cas9」という強力なゲノム編集技術も開発され、迅速かつ正確にDNAの特定配列を切断し、望ましい配列と入れ替えることもできる。こうして作られた遺伝子を卵子や精子に挿入すれば、難病にかからない子孫を生み出せるだけでなく、自分の子供の髪や目の色を望み通りにデザインすることさえ可能になる。さらには、米国の企業であるバイオビバ社は、自社が開発した遺伝子治療で、体の老化を一部逆行させることに成功したと発表している。

こうした望み通りの人間を生み出すバイオテクノロジーの研究開発は、AIとの協調のなかで、今後ますます加速していくだろう。

体と機械が融合する近未来

ミチオ・カク氏の写真

インターネットが、それまで知識を得られなかった人々に知識を広めたように、技術には、道徳観、倫理観があります。知識が拡がれば、戦争は減る。市民が力を合わせることで、独裁者を倒して民主主義が栄える。技術が知識を広め、知識が技術を善用していくのです。

ニューヨーク市立大学 理論物理学 教授

ミチオ・カク氏

荻上 チキ氏の写真

AIも、火も槍もインターネットも、道具です。道具とどのように付き合い続けていくのかという点においては、狩猟時代から変わらない。新しい道具や技術が生まれると、人間の制約条件が変わり、社会の設計要件も変わる。AIの登場によって、技術をコントロールするための規範や検証を、新しく再構築することが求められています。

評論家

荻上 チキ氏

未来学者のレイ・カーツワイルは、著書「シンギュラリティは近い」で、「人間の潜在能力の著しい拡張」を提起した。カーツワイルは近い将来、人体と頭脳、機械が合体し、かつてない壮大な知能を持つ存在、21世紀のサイボーグが生まれてくると予測している。

人間の能力を拡張する技術は、すでに利便性のために利用されている。手をかざすだけでドアロックを解除したり、コンピュータにログオンできるRFID装置を体に埋め込んでいる人は、すでに2万人を超える。

医療におけるテクノロジー活用はさらに進んでいる。パーキンソン病の症状を抑えるために、脳のペースメーカーを埋め込んでいる患者は、世界に10万人もいる。失明者に有効な人工網膜や、聴覚を回復させる人工内耳の利用も進んでいる。さらに、生まれつき色を認識できない患者が、頭に装着したアンテナを通じ、色を音として感じるユニークな事例もある。こうしたテクノロジーは、暗視のできる人類さえ生み出すことも不可能ではない。

南カリフォルニア大学・神経工学研究所は、米国国防省傘下の国防高等研究計画局(DARPA)の助成を受けて、脳にマイクロチップを埋め込み、記憶を回復させる研究を進めている。ビッツバーク大学の研究チームは、人間の脳からコンピュータを経由して電気信号を送り、ロボットアームを制御する実験に成功した。

サイボーグ兵器さえ生み出しかねないこうした技術開発を、技術倫理の観点から注視していく社会システムを、併せて考えていくべき時代を迎えているのだ。

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